帰り道、少し感じの悪いパンダみたいなかおをした中型車が交叉点を抜けていった。ここは幹線道路で、大型車が沢山通る。
全長の長いトラックが軽快に走ってきて、まるくて白い何かをくるくると空に巻き上げた。
あ、くらげ、と思った。薄水色の空に、白いくらげが一匹、舞い上がって、そしてくるくると落ちてきた。あ、くらげが轢かれてしまう。
わたしは立ち止まった。黒い車が通る。くらげは左に捩れて黒い車をなんとかよけた。黒い車はMARIMOの中型だ。あっ、コーラルピンクの軽。くらげが……。くらげは斜め上にひょうと舞い上がって、車の屋根に少し当った。あ、痛い。危ないよ。わたしはいつしか握りこぶしの爪をぎゅっと食い込ませていた。痛そうだ。
くらげよ、くらげ、還ってきて。
落ちてゆく自分の躰を空に幻視する。自分の重さ。一定にかかる加速度。薄れゆく意識。水のような恐怖。
意識が遠くなる。
──自分の足取りが不確かになっているのに気付き、わたしは交叉点に飛び出しそうになっていた自分をとどめた。わたしの脚ときたらまったく、分度器みたいに杓子定規だ。
緑の蛙みたいな車が、わたしと、交叉点を挟んで向かいにいて、交叉点の真ん中には白いコンヴィニの袋が、くるくると風に巻き上げられて浮かんでいた。
わたしはぎゅっと瞬きをして、家路についた。
くらげに、見えたよ。轢かれませんように。誰も轢かれませんように。
振り向いてもとってもちっぽけでつまらない、ありきたりなコンヴィニエンスストアの袋が、行き交う車の群の向こうで、孤独に舞っているだけだった。
──(c) 泉由良 ──
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