何処までも世界



時々悪い癖が出て
最上階の七階まで非常階段をふらふら上がり眼下に広がる車と町並みその他諸々にじっと目を凝らすと
だんだんアスファルトの上に手足が不自然に捻くれ曲がった全身打撲でもう動かない私の躯が浮かび上がり
私は苦しい息を吸ってじっとそれをねめつけてからがくがく震える脚でまた非常階段を降りるのです
そんなことを何度もしているけれど幻視した私の姿は結局今日も実際に落ちてはいきませんでした
すこしさむいね、ここは

雨が降るお葬式のときはそれはもう仕方が無かったということだって云うのよねと、保健室の先生が云いました
彼女の不慮の事故もどうしようもなかったということなのか
先生は私を慰めてくれようとしたのでしょう、きっと
私は弔いの式に出ず、毛布に潜って長い時間を過ごしました
雨風は荒れ狂っていました

あのときも、さむかったな

でも、そうではないの
やがて私のくちはそう云います
彼女は今も、生きています
あのビルの上から鳥になってしまった少年も生きています
鉄塔の群に呼ばれるように教室の窓から外に飛び出した男の子も
みんな、居なくなってなんていません

彼ら彼女らは、生きています

見て、ほら、ここに

私の目を通して、みんなこの世界を見ています

雨も上がったこの世界を、見ています

だから私はもっともっと沢山沢山の光と陰の織りなす景色を
瞳に宿さなければなりません
先に逝ってしまった彼ら彼女らに見せたくて、光を、愛情を感じさせるものの端々を、綺麗で優しいものたちを
私は目映過ぎて涙が溢れそうだけれど、流れてしまわないように、潤む目にたたえて、たたえて、もっと宿して

ねえ、見えるでしょう?
見て
見て下さい

この世界が今、もう既に、あなたが逝く前よりも生まれた時よりも
もっともっと古くから決まっていた綺麗でわらい話みたいな事の通りに
小指と小指で絡め合った約束の銀糸のように
彼ら彼女らは、今は、世界になっている

見て ここに居るのだから
微笑んで
共に居るのだから

眼を瞑る日が来るまでは
光をずっと映して伝えて
あなたも
見て 抱き締めてあげるから





(110814)



rest in peace

──(c) izuminn yuraly ──





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