天気雨

 1

不穏な色の空に
クレヨンでばつを付けた
夢を見た
この地に立って
まっすぐ腕を伸ばして

 2

誰かがドアを開けて出てゆくたびに
躰を折り曲げる程の
いたみを感じるのは
また逢える
また逢ってくれる
という確信を
植え付けられぬままに育ったから

 3

もう大きくなりすぎてしまった
決して悪くない現状に
こんなに苦しむのは
過去に平気なふりをして
素知らぬ顔でやり過ごした孤独たちの
代償

「私は孤独につよいと思っていました」

それは嘘でした。あるいは間違い、思い込み。

 4

あの日幼い私は
不穏な空の色を見て怯えた
世界の終わりが
もうそこまできているのだと思って
家族で入ったレストランでも
玩具を買って貰ったときも
心はおびえていた

曇り空に慣れきった大人たちが
デパートメントに気を取られていたあいだ

 5

雨が好きだった ときもあった
空が暗いだけで 落ちていくこともある
光が差さない日 屋根の上で見ていた街

しあわせの記憶 が すべて
錯覚に裏返っていく だるい午後
晴れでも雨でも
それは根本的な理由ではない

 6

雨が ふりますね てん、てん、てん
雨が ふってるの しと、しと、しと
雨が ふるふる てん、てん、てん

大丈夫、たいしたことない



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