一生 虹を 捜す

春の病に倒れた 三人目の私は
それ以来 瞳 閉じたまま
なぜ閉じているかって
左眼 失ったから
失くしたアリス 捜して

猫のいない町
夏がくる前に消える 匂い 捜して

夕立ちのことは 忘れた
青黒い町 彷徨い ともしび 捜して

限りない復讐 裏返る青空
罪を犯した右手
疵を舐めた左手
その手をたずさえた この私は ああ
救いと呼ばれるものを 捜して

秋のはこに 仕舞っておいた たからもの
ガラス玉 葉脈の栞 切断した 小指の骨
肺の影の写真
何万年か振りに 接近するという 惑星も
仕舞っておいた
なのに失くした 全部 はこごと
そして 歩き続ける 花野 捜して

山に入っても こわくなかった 冬の道
街には無い 雪が 積もっていた
黒い マフラーを 幾重にも 巻いて
冷たい川の 流れが 私の身体を 刺した

私はずっと 捜して 捜して

もう忘れたかな みんな
まぶしくて見えない

嵐の夜には 一緒に眠ろうね
吹雪の夜には 並んで眠ろうね

約束したのにね

いいよ あたしは
一生 虹を 捜す



back