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▼日本シリーズ

京都○-×神戸
4点

お題
病室にほのかに香るラ・フランス
肋のうちの白き影に似て

おとうとの 肺に芽吹いた白百合は 彼を無菌室へ 追いやり

青い粉 こぼす白百合染まりゆき 姉は弟の見舞いに日々ゆき

肉やさい 食べられぬと云うおとうとに 果物ならばと姉は説いたり

幼き日 ハム・エッグにフォーク突き刺した 交わした笑顔はいずこぞ 今は

ぶどうなら 受け付ける躰 いとおしと 果物ナイフを動かす姉と

洋梨を 食べたいなあと 気紛れに 口走る彼は今更に 姉の優しさ 姉の存在 姉への思慕を 思い起こせリ

白百合は 蔓で肋のうちに這い 弟の胸は 僅かに痛む その痛みをどう 伝えたものかそれよりは 姉弟互いに思い遣り 過ぎ去りし日々を 懐かしく抱き そして今 姉が見舞いを絶やさぬ倖せ 姉の剥く果実食べるが倖せ

「病室というのね此処は」とたった今 気付いたかのように姉は呟く「みつけてきたわよ、ラ・フランスよ」



病室にほのかに香るラ・フランス
肋のうちの白き影に似て


由美子は目を見開いた。

健一は動かない。

上の句を詠んだのが、患者の由美子だ。
下の句を詠んだのが、主治医の健一だ。

ただならぬ下の句ではないのは、短歌の心得がなくても分かる。

「わたし、どこか悪いんですか」

健一は答えない。

「もしかして、肺ですか」

健一は答えない。

点滴がリズムを刻む。

「・・私、もっと生きたいんです」

健一は答えない。

点滴が、規則正しいリズムを刻む。

「わたし、もっとー」

健一は

点滴が、とん・とん・とん

つぅー、と涙の流れる音

健一は答えない。

とん・とん・とん

つぅー

健一は、

とん・とん


由美子は、生きる理由を探している

健一は、下の句を探している。

とん・・


タイミングを合わせて由美子は、

健一は今、下の句を探していて動けない。





ユミコ


ケンイチ


テンテキ






笑った。

健一も笑った。

点滴も笑った。



解放されたのだ。



看護婦が来て、病室の窓をあけた。
ラ・フランスの香りがひろがり、
生きているすべてのひとが振り向いた。

(先攻・京都)泉由良-(後攻・神戸)にゃんしー

審判評:
定型で応じて、うまくレトロな世界を生み出し、
なにか独特の懐かしさ醸し出している。
後のほうは、少しわかりにくい。
後のほうが工夫によっては 面白くなるはずなのだが、
完成度として前を選ぶ。
医者のケンイチが答えないはずがない
近頃いまどきの医者の非情さにこっぴどくやられている身としては
リアリティのなさにまずつまづいてしまった。

-審査員:鳴門金時

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