「あなたに十年前のお礼が言いたくてずっと探していたの。
自転車のチェーンが外れて途方に暮れていたあたしに、
偶々通りかかったあなたが自転車を貸してくれたお陰で、
電車に乗り遅れず、
大事な商談に間に合って、
現在の起業にも繋がったのだもの。
商談後に駐輪した駅前に戻ったのだけど、
もう自転車はなかったわ。
あの時あなたの連絡先を聞いておけば良かったのに、
慌てていてお礼として手作りのお弁当を押しつけただけだった。
あれ食べてくれた?
卵焼きには今でも自信あるの。
あれからずっと探していたのに見つけられなくて。
あの時のことを書いたエッセイを雑誌で読んで連絡してくれて
本当に嬉しかったわ。
あの時一緒だった娘さんはもう中学生になるのかしら?会ってみたいわ」
「娘はあのお弁当を食べて食中毒で死んだわ」
女はバッグから取り出したナイフをあたしの胸に突き刺した。
「あたしもね、
ずっとずっと、
あなたに会いたかったの。
空からそんな言葉と共に現れた少女は
黒いローブを纏い、大きな鎌を持っていた。
「……ひょっとして、死神?」
「そう。あなたの命を貰いに来たの」
「ごめん。神様なら間に合っているんだ」
「え?どういう……」
少女の語尾に別の少女の言葉が重なった。
「邪魔しねで!」
奥の襖からそんな言葉と共に現れた少女は
古い着物を纏い、ボロボロの団扇を持っていた。
「……ひょっとして、貧乏神?」
「んだ。この人にどりついてらの。だだばんで帰ってけろ!」
「何語よそれ!私だってそうはいかないのよ!」
「話の分からね神だべ!帰れ帰れ、塩ば巻いてやる!」
「キャーッ、何するのよ!お、覚えてなさいよ!」
そう言い残し、黒いローブの少女はいなくなった。
部屋には僕と古いの着物の少女。
「お腹空いたね」
「んだ」
「ラーメン作るから、2人で分けよっか?」
「ええのけ!?」
いくら貧乏でも、僕を守ってくれる神様に、供物くらい捧げたい。
貧乏神でも、僕の神様である。
(先攻・神戸)一試合完全燃焼池上-(後攻・香川)スタルヒン