大阪ミナミには有名なものがいくつかある。「ひっかけ橋」。ここを通る女の子を口説く男が多い為だ。「グリコの看板」。大きな蟹がある「かに道楽」。それに今は無くなった「くいだおれ人形」だ。賑やかなチンドン屋の形をした人形は、とんがり帽子を被り、鐘と太鼓を打ち鳴らす動くロボット人形だった。赤い線の入った服を着ている。赤線に行ったことのある人なら知っているだろう。欲望渦巻く夜の街、赤線の娼館「キムラヤ」の看板娼婦ミズモのことを。食い倒れの人生に嫌気がさした男がある晩、くいだおれ人形に目をつけた。あのロボットが気に食わん。いつかどないかせなならんちゅうて、明けがた誰も居ぬ間に悪さをした。
電光掲示板に朝のニュースが流れた。
食い倒れ人形 刺される
刺したのは 着倒れ人形
何のために? とみな首を傾げる
怨恨 腹いせ 痴情のもつれ 将来を悲観して 正義あるいは信条のため
さまざまに憶測はなされる
しかし金目当てではないだろう
食い倒れ人形に財産はない
――さて人形とは 人を模したものである
腹の中が見たかっただけだ
贅を尽くされ美を誇った食物らがあの大食らいに呑み下され
本来の働きを全うせず無駄に分解されるまえに
最後の姿を美の散りざまを衆目に曝したかったのだ
美しいものを人目に付かせず
腹の中で壊してしまうなんて
目に余る大悪である
――そう人形とは 人を模したものである
食い倒れ人形 刺される
刺したのは 着倒れ人形
どちらも道楽者であった
(先攻・神戸)飛鳥彰-(後攻・名古屋)こみちみつこ