「私は、どうなんだろう」 「え?」 「写真撮るの、好きなのか、わからないんだ」 でも。 「好きで撮ってるのか、目立ちたいからなのか、見捨てられないようになのか、わからないんだ」 「三ツ葉……」 その話を聞くのは怖かった。三ツ葉のウエストポーチには、オリンパスの一眼レフが入っている。 「一千年。いいヒントを得たよ」 「今ので?」 「ああ。でもどうしてそれがヒントといえるのか。伝えるには少々手間がいる。そうだな……私も過去話をしようか」 「被災地を旅した思い出話?」 「いやいや。本当の過去話さ。依利江と会う前の話。会って間もないころの話、そして、この旅に依利江を誘ったいきさつだ」 「面白そう。聞かして聞かして!」 「聞かせよう。あれは幼稚園に通ってたころの話……でもその前に」 三ツ葉は店員を呼んだ。雅山流如月を一合頼む。いつの間にか浜千鳥は空いていた。 「その、頼んじゃって平気なの?」 「平気もなにも、昔話は酒のつまみにちょうどいいんだ」 なんか、すごく平気じゃなさそうだった。明日引きずらなければいいんだけどなあ。 「ずっとね、中途半端な生き方だったんだ」 空の徳利をくるくるいじりながら、彼女は語りだした。 「小さいころから人と同じようにはなりたくなかったんだ。学校も嫌いだった。先生も苦手だった。はたから見たら問題児だったと思うよ。人と違うことばっかやってたからね。どれだけ迷惑かけたんだろう。迷惑かけたくてかけたんじゃないんだ。なにをすればいいのかわからなかったから、人に迷惑をかけることもしてしまったんだ」 「親から注意されなかったの?」 「されたさ。めちゃくちゃ怒られたこともあった。母の真似して包丁持とうとしたときとかね。でも怒られたあと、どうして持っちゃいけないのか確かめたくなるんだよ。それで指を切って、泣いたっけなあ」 「よく生きてこれたね」 「自分でも不思議だよ」 三ツ葉は笑ってたけど、あんまし笑えない。 「とにかくいろんなことを自分でしたかったんだ。自由になりたかったから、中学を卒業したら働いてもよかった。まあ結局、働き出したらその世界のことしか知れない気がして高校に入ることにしたんだけどさ。高校生という経験は一度しかできないわけだし。でも高校生らしいことは毛嫌いしてね。部活とか恋愛とか、いわゆる青春を謳歌するってやつをしとけばよかったかなって、今は思うよ。中途半端なままだったんだ」
|