出店者名 ヨモツヘグイニナ
タイトル 独りの青
著者 森瀬ユウ
価格 500円
ジャンル 純文学
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紹介文
 ある日突然、廃ビルの屋上から転落死したクラスメイトの高橋。彼は多くの同級生たちから好かれていたため、ホームルーム前の教室は大変な騒ぎになっていた。そんなクラスメイトたちと距離を置いている桐野和泉は、ひとり窓際の指定席に座って、冷静に彼らの様子を窺っていた。
 放課後。最寄駅で電車を降りた和泉の背中に、ひとりのクラスメイトの声が掛けられる。藤崎悠真。今までに一度も会話を交わしたことがない相手である。
 何故藤崎は和泉に声を掛けてきたのか。彼と高橋との関係は……。

「俺が、高橋を殺したんだ」

 高橋の死をめぐって翻弄される、男子高校生ふたりの「共犯者」を描いた物語。

オムニバス|A6|168頁|500円

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 高橋が死んだ。殺されたのだという。今朝から教室はその話題で持ちきりだった。
 扉を開けて中に足を踏み入れると、ざわざわと騒ぎ立てているクラスメイトたちの姿が視界に飛び込んできた。数人で集まって立ち話をしている者もいれば、机に座って嗚咽を漏らしている者もいる。
 教室のほぼ中央、高橋の机の上に飾られている白い菊の花。それはまるで造花にも似て不自然に凛と佇み、高校の教室という空間からは完全に浮いているように見えた。ただ立っているだけで汗が流れ落ちるほどの暑い夏の日に、けれどもその場所だけは何処か冷えた空気をまとっていた。
 ちらちらと、それがまるで高橋自身であるかのように、時折クラスメイトたちが白い花へと視線を泳がせている。
(嫌なものを、見たな)
 和泉は少しだけ眉を寄せながら、それでも無関心を装って自分の席へと向かった。教室に入ってから窓際の指定席に座るまで、和泉は誰とも視線を合わせようとしなかった。言葉を発することもない。同様にクラスメイトたちも誰ひとりとして和泉に声を掛けてはこなかった。もしかしたら視界にすら入っていないのかもしれない。自分が本当に存在しているのかどうか、和泉自身でさも疑問に思ってしまうほどだった。高橋の机の上に飾られた、偽物の造花のほうがまたマシだ。ぼんやりとそんなことを思った。
 カバンを下ろして静かに椅子に腰かけた。そうして心を落ち着けていると、クラスメイトたちの断片的な言葉が次々に耳に飛び込んできた。
 廃墟の屋上から。自殺か。昨日の夕方。突き落とされた。飛び降りて。どうして。誰が。何のために。
 和泉は今朝はテレビの電源を点けていない。そのため朝のニュース番組でどのような報道がなされていたのか、そもそも高橋のことが報道されていたのかどうかさえ把握していない。それよりもきっと、昨日の昼過ぎに亡くなったという大物俳優の生涯についての特番が組まれていたのだろうと思う。
 しかし地方新聞の社会欄はその片隅で、かろうじて高橋の事件を報じていた。