第一幕 居候猫の現状
「マオー、はやくしろー」 隆二は、玄関で靴を履くと、部屋の中に呼びかけた。 「待ってー」 ぱたぱたと軽い足音をたてて出てきたマオは、ピンクと白のジャケット二着を持っていた。 「ねー、どっちだと思う?」 どっちでもかわんねーよ。 喉まででかかった言葉を飲み込む。そんなこと言ったら、よりいっそう面倒なことになるのを、経験で知っている。既に何回かなったし。 「ピンク」 「あ、やっぱり?」 今回は当たりを選んだらしい。マオは満足そうに頷くと、白いジャケットはダイニングの椅子にかけて、ピンクのジャケットに袖を通した。 これが外れを選ぶと、「えーそうかなー、あたしはこっちがいいと思うんだけどなー」とか言われて無駄な時間を使うのだ。自分の中で決まっているなら、俺に聞くなよ。 「帰ってきたらちゃんと片付けろよ」 放置された選ばれなかった上着を指差すと、 「わかってるよぉー」 と頬をふくらませてマオが返事した。 わかってないだろ。放りっぱなしだろ、お前いつも。 マオは茶色いパンプスを履くと、同じ色のスカートのひだを軽く直した。上には白いフリルのブラウスを着ている。肩からかけた小さな鞄の中には、何が入っていることやら。 隆二に命じて玄関に設置させた姿見で、自分の姿をじっと確認すると、 「うん! おまたせ!」 満足したのか、隆二に顔を向けると笑った。 「じゃあ、行くか」 玄関をしめると隆二は、マオの右手を掴んで歩き出した。
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