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「愛されたいと素直に口に出してごらん。私はきみが欲しがっただけ与えてあげる」 |
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フルオーダーメイドの愛玩用人造美少年「アドニス」のリオは他のアドニスたちのようにご主人様に心を開いて甘えて見せることが出来ず、製造元出戻りになってしまう。 「中古品」を手にしてくれるもの好きなんているはずもない、と心をふさいでしまったリオを買い取りたいという新たなご主人様は、それでも中々リオの前に姿を現すことはなく、リオの不安は募るばかりで……。 川原由美子「観葉少女」を思わせる、愛されるために生まれた美しい肢体の隅から隅まで磨きつくされた十四歳型美少年、という「アドニス」の設定に作者であるまゆみさんの美少年へのあくなき愛とこだわりを隅々まで感じます。 対するのは、蔓系植物の「ご主人様」 「触手」と聞いた時に感じる男性向けのグロテスクな生生しさは感じられず、研ぎ澄まされた文章表現はどこまでも甘美で幻想小説のような趣。 「愛されたいと素直に口に出してごらん」 捨てられてしまった痛みを抱えるリオに、ご主人様の言葉は果てなく甘い蜜であり、喉元に突きつけられたナイフとも同義だ。 愛されたい、必要とされたい、求められたい、「愛されるため」に生まれてきたリオにとってそれは、ひどく切実な生命線だ。 喉元からせりあがったそれを口にした時、幾重にも絡まった蔓と甘い蜜はリオを絡め取り、むせ返るような甘く息苦しい「愛」が余すことなく与えられる。 心ごととろかせるような「悦び」に満ちた世界に触れられる、異色の「愛」の物語――という紹介文はいささか大仰と言われてしまうかもしれませんが、百聞は一見にしかず。 クラシカルで品の溢れる装画と世界を楽しませてくれるフランス製本による造本と共に、見て、読んで美しい一冊。 | ||
推薦者 | 高梨來 |
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美しい少年リオは、不器用であるが故の売れ残り。傷つき、孤独に心を閉じた少年を、買い取ってくれたのは優しい触手だった。触手はかたくなな少年を解きほぐし快楽に導いてくれる。 「求められたい」という少年の欲望に、いくらでも応えてくれる触手の寛容さにときめく小説だった。触手萌えでなくても、この触手は魅力的なので、きっと読者も心を溶かされてしまう。スパダリ触手という新しいキャラクターを作ってしまったまゆみさんはすごい。 そして、装丁がフランス製本になっており、美しいイラストともよくマッチしている。手元に置いておきたい一冊。 | ||
推薦者 | 宇野寧湖 |