出店者名 温室
タイトル くるぶしにくちづけ
著者 まゆみ亜紀
価格 600円
ジャンル JUNE
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紹介文
120ページ/600円/カバー付き文庫
世話焼きな甥(生徒でもある)×ぼんやりした叔父(教師でもある)

ぼんやりした高校教師、綾瀬昭久は成長してすっかり男らしくなった甥、大志に求婚された。男同士だということは脇においても、教師と生徒、叔父と甥、禁忌だらけの関係。どうして大志はおれが好きなのか? 悩める日々が始まって…。
世話焼きな年下に翻弄される、足舐めと慰撫の物語。

「っくしゅん!」
「昭久!」
 くしゃみをした瞬間、だれかに呼ばれた気がした。鼻をすすりながら顔を上げた綾瀬は、潤む視界のなかに見つける。飼い主を見つけた犬のように走り寄ってくる、少年を。
 唐突に下の名で呼ばれ、綾瀬はもちろんかたわらの篠谷も、あっけにとられて少年を見た。おろしたての学生服に身をつつみ、にこにこと笑っている。新入生にしてはずいぶんと背が高い。綾瀬もそう小柄なほうではないのに、見上げる高さに顔がある。
 しばし、一心に自分を見つめる奇異な生徒を見上げていた。やがて、花粉症ゆえの潤みもあって眠たげなその目がはっと見開かれる。
「……大志(たいし)?」
 それはいままさに、脳裏に浮かべていた少年の名だった。年の離れた長姉の息子―つまりは綾瀬の甥、尾上(おのえ)大志である。彼とはもう三年、会っていなかった。海外留学していたので機会がなかったのだ。
 綾瀬にとっては短い三年は、少年をまったく違う男に変えていた。まず、背がのびた。体格もよくなっており、体の線の出にくい制服越しにも年の割に立派な体躯があるとわかる。能天気そうな表情は変わらずだが、顎にかけての線がひきしまり、ぐっと凛々しさが増している。
 驚く綾瀬に、大志は得意げに笑ってみせる。
 そして言った。
「迎えにきたよ」
 綾瀬は首をかしげた。……迎えに、きた?
 翻弄されるばかりの十も歳上の男に、大志はなにかとても良いものを見るような目をした。たまらない、といったように、その手がのばされる。
 つかのま、綾瀬はなにが起こっているのか測り損ねていた。肩を包む手の感触、ぐい、と体が均衡を崩して倒れ込んださきにある温もり。歓喜を示して高鳴る鼓動を耳でじかに聞き取ると同時に、おのれを抱き取った男の体にはまだまだ幼さが残っていることを知る。
 抱きしめられている。気づいて慌てるより早く、ぎゅう、と体に回された腕に力がこもった。ひときわ大きくなる大志の鼓動の向こうに、綾瀬はありえないことばを聞く。
「昭久が好きです。おれと結婚を前提にお付き合いしてください」


相手を大切にしたい(でも変態)
高校教師の綾瀬は、昔、甥の大志を助けるために怪我をした。その後遺症で足を引きずって歩いている。そんな彼の元に現れたのは、高校生になった大志だった。いきなりプロポーズされて面食らい、逃げ回る綾瀬だが、世話を焼かれるうちに、彼のペースに飲まれてしまう。
年下攻めが健気で可愛いBL小説。年上で大人の綾瀬に対して、余裕をかましてリードしてあげたいのだけど、ところどころ、子どもなところが首を出して、二人の関係はゆらゆら揺れる。だからこそ、綾瀬もその揺らぎにあわせて、すっかりと年下の大志に甘えるようになってしまう。「大人-子ども」の関係は反転していき、日常に飲み込まれるように優しい恋愛関係が生まれる。ほんわかしながら、「え、それは変態では?」というような欲望がチラチラするところがエロい小説でした。
推薦者宇野寧湖

さわやかな足舐め、小粋な官能。 甥っ子にだめにされちゃう叔父さん!
 爪先へのキスは崇拝、足の甲へのキスは隷属だなんていいますが、ではくるぶしは…? ああ、「お世話」かもしれない。甘やかすことって、限りなく愛のある支配かもしれない。
 本作は、甥(高校生)×叔父(高校教師)のBL作品。綾瀬昭久は、少々ぼんやりした高校教師。勤め先の学校が女子高から共学にかわった年、入学してきた甥の大志にプロポーズされてしまいます。面食らう綾瀬をよそに、大志は綾瀬のアパートに押掛け、意気揚々とあれこれ身の回りの世話をするようになり…。
 年下攻めの魅力とはなんでしょう? まだまだ子どもだと思っていた攻めくんがすっかり「男」になっていて、ドギマギしてしまう受け…、成長ギャップにより展開されるドラマは、やはり醍醐味でしょう。しかも甥と叔父となると、叔父さんは甥っ子くんが赤ん坊の頃から知っているわけですから、ドキドキ倍付け!
 甥・大志は炊事洗濯掃除は完璧、背が高くて女子にもてる見た目、おまけに留学経験もあり勉強もできる高校生。叔父の綾瀬は終始たじたじです。
 大志のハイスペックにはわけがあります。10年前に一緒に出かけた山で、綾瀬は大志をかばって足に怪我を負ってしまった。綾瀬には後遺症が残り今も少々足をひきずるほど。大志は子どもながら「責任をとりたい」「傷をいたわりたい」と思うようになり、凛々しく成長したのです(ここの、大志が「いたわりたい」という気持ちに気づく描写・展開が秀逸です)。
 気持ちの根底に罪悪感があり、彼なりに乗り越えた先の「世話したい」、「甘やかしたい」。15歳の、タフさ、一途さ、執着。爽やかさと、ひとすじなわではいかない独占欲をあわせもつ魅力的なキャラクターです。彼の造形がそのまま本作をあらわしているように思えました。すがすがしく、フェティッシュ! 
 綾瀬の傷跡のあるくるぶしに大志がくちづけるシーンは、愛情とどこかほの暗さが宿り、ドキドキです。酒に酔った綾瀬の嘔吐を世話するシーンもたまらない。綾瀬は大志の気持ちにこたえられるのか、「世話される」ことを受け入れられるのか…。
 リリカルな文章とすっきりした構成が、作品全体のトーンをあくまで明るく仕立ててあり、すがすがしく?足舐め?世界に浸れます。まゆみさん作品は引き算がとても小粋だなあといつも感嘆しています。爽やかと官能のバランスが絶妙でおすすめです。
推薦者オカワダアキナ

禁忌とフェティッシュのマリアージュ=意外に爽やか??
桜の咲き乱れる新学期。ただでさえぼんやりしている教師の綾瀬昭久は花粉症に見舞われ、ますますぼんやりに磨きがかかるばかり。
そこに突如現れたのは海外留学から帰還し、見違えるほどにたくましく男らしく成長を遂げた甥っ子大志。
少年時代、昭久のくるぶしに今もなお後遺症を残す傷を負わせたことから「責任を取る」と傷に執着するように昭久を追い求める大志の勢いにいつしか呑まれていく昭久は――

甥と叔父、教師と生徒、同性同士……
「禁忌に禁忌のトッピング」を加えた関係性は、かと言って後ろめたさや息苦しさを感じさせるような要素はなく、表紙から感じる吹き抜ける春風のように爽やか。
昭久の姉であり大志の母である晴穂は本来なら障害になるのでは!? と思いきや、立派に成長した大志の「昭久をもらう」宣言をむしろ「早く陥落されてしまえ」と後押ししてくれているようで……。
いくら男やもめとは言え、男として、肉親として、教師として――「過ち」はいけないことだと分かっているのに、外堀を埋めながら迫り来る大志の手に昭久は……?

正直なところ、社会人と学生ものを読むと既に大人側に年齢が近いわたしは、「子どもの思い込みって怖い! これから未来のある子どもの人生を狂わせてしまうかもしれないのに責任なんて取れない!」と、大人側に肩入れしてしまうわけです。笑(そこが良いんですけど)
しかも本作は可愛かった甥っ子が「男」として現れ、迫られる側になるわけでして……。
綾瀬先生の戸惑いもそりゃあわかるさ、と思いながらも、幼き日からのひたむき過ぎるほどの想い(と執着)でくるぶしの古傷へのフェティッシュな情熱を見せる大志の大胆さにはハラハラさせられっぱなし。
日常を生き生きと色鮮やかに、フェティッシュなまなざしをまじえながら描き出す手腕はまゆみさんワールドならでは。
高校生ゆえなのか、BL的な成就までは描かれないのですが「全年齢でありながら官能的」な描写は本作の大きな魅力。
行われる行為そのものではなく、それを取り巻く空気や感情の流れの描写にこそ官能は宿るのです。(※巨大なブーメランを自らに刺しながら)

タイトルそのものの「くるぶしにくちづけ」の先に巻き起こる出来事は書籍版のでのお楽しみということで。
ちょっぴりえっちな個性が輝くエンターテイメントを楽しませてくれる作品です。
推薦者高梨來