ゴールデンウィーク、お休み取れたから明日帰るね。 美咲からそう連絡があったのは、昨晩の二十三時だった。 「僕が今日仕事だったり用事でいなかったらどうする気だったの」 お昼前、玄関に旅行鞄を放り投げて家に上がり込む美咲の後ろ姿に、遼は呆れた声を投げかけた。大手の商社に勤める美咲からの連絡は、いつも急だ。 「えー?そしたらすずちゃんと遊んでるからいいでしょ」 遼の文句などどこ吹く風で、ねーすずちゃん、と美咲が同意を求めている相手。遼が先月から飼い始めた猫、すずらんだ。里親募集のチラシを見て引き取ってきた、生後四ヶ月の白猫。すずらんはふわふわの白い体を美咲にすり寄せ、転げまわってじゃれている。会うのはまだ二回目だというのに、すっかり懐いている。 「僕の家なんだけど。すずじゃなくてすずらんだし」 「やだ細かい。遼のけち」 頬を膨らませて拗ねてみせる美咲を見ながら、随分晴れ晴れとした顔で笑うようになったな、と思う。昔の美咲は、笑っていてもどこか苦しそうだった。今は曇りのない顔で笑う。 「大体遼のじゃなくて遼のお母さんの家でしょ。ゴールデンウィークで海外行っちゃっただけで」 「僕のお給料で行ってるんだよ」 「いいねー親孝行だねー」
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