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僕の先生は、うつくしい。長い黒髪と、夜天をうつした暗く澄んだ瞳。窓の外を見つめるとき、頬に青白い影を落とす長いまつ毛、誰かの名を呼ぼうとして止まっている朱い唇。魔術書を読む低くとろとろと流れる甘い声――待ち人を待って窓辺に頬杖をついている先生の横顔を、暇があれば僕は眺めていたい。ある角度からの先生の横顔は、うつくしい。 |
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ファンタジー小説を読んでいると「どうして私のいる世界はこんなにもつまらない世界なんだろう。この世界に行けたらいいのに」と思ってしまうことがよくある。どこへ行ったところで、私は私でしかなく、世界を救う勇者になるだけの根性も力もないし、かれに物語を揺るがすような助言ができるような思慮深く知性にあふれた魔法使いになれるはずもない。きっと地図に名前も載らないような片田舎で、魔王や竜の脅威を風のうわさで聞いておびえるくらいの、「なにもおこらない場所」で拾い仕事をして、「何物にもなれずに」買いたい本も買えずに読めずに毎日を過ごすんだろうな、っていうことは、深く考えなくてもたどり着ける結論なのに。 でも、きっとそんな何も起こらない場所で、なにものにもなれないわたしは、夢に見るんだと思う。 ある日、深夜、家の戸が叩かれて、魔法使いが訪ねてくることを。そしてその魔法使いが、「おまえを弟子にすることにきめた」と強引に「その現実」から連れ出してくれることを。 『カケラvol.01』は、「魔法使いの弟子」をテーマにした小さな小説や漫画、イラストを集めたアンソロジーだ。 この本に登場する「魔法使いの弟子」たちは、八作それぞれにみんなちがう。魔法使いになるつもりもなく、いきなり弟子入りすることが決まってしまったものもいれば、最初から師匠を大魔法使いだと知っている弟子もいる。住んでいるのがわたしの棲んでいる世界と地続きの現実世界の人もいれば、少しだけ異世界と重なった世界や、ここではない知らない世界で生活する人。弟子になるきっかけも、いい弟子なのか落ちこぼれなのかそんなところまで全くちがう。 この八つの物語に共通していることは「魔法使いの弟子」であるということだけ。 それは、「魔法使いの弟子になれる可能性」が八つあるってことじゃないですか。 こんな世界なら、師匠なら、弟子なら、私もやっていけるかもしれない。そういう夢を、希望を抱けるということ。 わたしはこの本を、異世界・魔法使いカタログとして読んだ。どんな異世界に生きたくて、どんな師匠がほしくて、どんな弟子にならなれるか……そういうことを、考えて検討して、来るべき日のために心の準備をするのだ。 「こんな私じゃ、魔法使いになんてなれない」そう思うのは簡単だけど、私が生きている限り、可能性はゼロじゃない。 | ||
推薦者 | 孤伏澤つたゐ |