メビウスぐるぐる 「ねぇ、紀ノ川さん。教えてくれませんか」 夜道を歩きながら、そんな声を掛けられた。 「僕は一言も名乗っていないし、君のことも全く知らない」 黒縁の眼鏡を持ち上げながら言い返す。よくよく見れば、そこには長いリボンをシャツの襟首に巻いて緩く結んだ少年が、水色の蛇を片手に立っていた。
それはあるいは、彼女について 彼女のことを聞きたいんでしょう。僕が彼女に会ったのは、この喫茶店でした。ほら、そこの奥。いつも薄暗くて名前も分からないクラシック音楽が流れている。
午前三時のご主人様 奥様は変だ。 「貴方は本当にきれいねえ」 にこにこしていて、悪気のかけらもないことは分かっている。 けれど、人をいろいろと着せ替えようとするのは、迷惑な趣味だった。
オレとメガネ ずっと黙っていたことがある。そう切り出されて、オレは、言葉の続きを待った。 オレの部屋。乱雑に服とか脱ぎ散らかしたままで、布団もよれているのが、やけに目に付いた。 オレの向かいに座って、教科書から顔をあげて、奴は言った。 「実は俺、メガネが本体なんだ」
竜がいた 「旅人さんかい? 運がいいねえ」 なみなみと注がれたコーヒーのカップを受け取りながら、そんなことを聞いた。 古い絨毯に似た日除けの幕の下、メラニンに守られた肌と真っ黒い目の男が、ぐつぐつに煮たコーヒーをさらに煮詰めている。
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