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「そなたらにとって、ローマの遺産の豊かさに頼り切り、安寧のうちに戦士の心を失ったデイアラの腑抜けどもなど、恐れるに足りようか!」 |
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七世紀のブリタニア、簡単に言ってしまえばイギリスの戦国時代を描いた物語。沢山の王国と王族が登場するが、本の最初のページに登場人物の表とブリタニアの地図があるので、そこを時々確認しながら読めば全く混乱しない。 歴史と地理が苦手な私のような人間にとってはありがたい気遣い。 「この人誰? ここどこ?」 なんて疑問に煩わされることなく、最後まで純粋に物語を楽しむことが出来た。 いやはや、戦国時代というのは大変なものですね。夫の敵が実の弟だったり甥だったり、気の休まる時がない。野心に燃える者たちは策を巡らせ勇ましく戦い、血を流して死んでゆく。 そんな中、詩と音楽を愛し、平和を望むデイアラ王国の王子エドウィンと楽人レゲンヘレの会話にはホッとさせられる。 「貴方のような方がこれ以上、人と人、国と国とのくだらぬ争いに傷ついて生きる必要などないんだ」 勝つことこそが善の世界に、全く別の価値観が示されることで、戦による死や痛みが相対化される。ただただ勝ち進んで気持ち良い・負けて悔しいというだけの話になっていない。そこが物語に深みを与えているし、歴史好きという訳ではない私にとっても馴染みやすいものになっている。 心優しいエドウィンとレゲンヘレに共感していたからこそ、彼らが辿る運命には「あああ!」と叫ばずにはいられなかった。王女アクハの賢い侍女たち(シネヴィスとヒュイド)も好き。主役脇役に関係なく、全ての登場人物が細やかに愛されて描かれているのを感じる。 この「ノーサンブリア物語」は並木さんが高校時代から温めていたお話だそうで、彼女もまた本懐を遂げたのだと、あとがきを読んで胸が熱くなった。 ※上巻・下巻両方読んでから書いた文章です。 | ||
推薦者 | 柳屋文芸堂 |