生きていくうえで一番必要なものがわかるか。ここで水だとか食糧だとか言う奴は馬鹿さ。そんなものは二の次だ。俺が生きていくうえで最も必要なのは、器だよ。そう、お前のような人の器だ。
張り付く視線の主は庭の小さな池から僕を見つめる。僕の体を乗っ取ろうとして池に投げられたそいつは、むすくれて鯉と戯れている。水溶性でなかったため、生憎生きている。水で溶ける妖怪もいるのだと、投げた後そいつに怒られた。そして何故かお詫びに池に住まわせることになった。 「俺の姿を見られて、なおかつ投げるとは。お前只者じゃないな。何者だ」 水面から顔の半分だけをだして睨む。口は水中なのに言葉がはっきりわかるのが不思議 「只者だよ。只の柔道の心得のある本屋の販売員」 ぶくぶくと泡を出す。なにやら非難めいたものを感じる。 「只者だろう?」 「詐欺だ! そんないかにも本の虫です然とひょろひょろのっぽな容姿で柔道だなんて。似付かわしくないぞ。分を知れ」 妖怪の癖に人間じみている。それに口達者。僕は久々に腹が捩れるほど笑い、水面の泡がさらに増えた。
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