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「くちびるに、紅」二季比恋乃 |
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凍てついた冬の静けさ、しんと澄んだ空気をふんだんに閉じこめたかのようなキョウダイアンソロジー。 「囲い、囲われ、腕の中」夜崎梨人さん 「神様」として祀られ閉じこめられてきた兄と、まだ見ぬ兄に焦がれる弟。 二人の世界に二人で堕ちていく様は何とも耽美的。弟が兄へと取る行動のひとつひとつをどこかしら官能的に感じます。 「キョウダイヤシロ」ワタリマコトさん 夏祭りの日、神隠しにあった僕は狐の領域に足を踏み入れ――怪異のお話ではあるのですが、ノスタルジックで愛くるしい筆致はなんともほのぼのとかわいらしい。 「雪の街」今井優さん 雪に閉ざされた街にかつて生きていたという”私”の語り口はぞくりと冷たく、まざまざと愚かさと悲しみを綴る。雪に閉ざされた街での火の描写が鮮烈。 「目に託した夢」新月さん ドラフト指名を受けながらも迷いに揺れる弟と、弟を見守る兄。二人で追う夢なのだ、と背中を押してくれる兄の姿がさわやかで清々しい。 「歪められたマリア」一色和さん 尊き救世主「リリィ・マリア」を求める国に生まれた二人の王子の物語。 群衆の望みを一身に背負わされた王族たちの血にまみれた歴史の一幕――と語ってしまうには軽すぎる。語り手である「私」の正体と、そこに込められた深い悲しみに読み手はただ圧倒され、ひれ伏す。 「くちびるに、紅」二季比恋乃さん 時を止めて生きる吸血鬼の兄と、彼に血を与える弟。 双子に生まれながら隔たれていくことを恐れ、「お揃い」を作ろうとする彼らの選ぶ行動は、血を吸うこと。 揃いの赤く染まった唇から紡がれるささやき声は何とも甘美的。 さまざまな角度から照らし出されていく想いが、しんと冷たく澄んだ空気の中ではらはらと雪のように舞い落ちる様を見つめているかのよう。 雪は音を吸う、とは言いますが、この狂おしいほどの静謐に包まれた空気は「冬」という舞台こそが生み出したものなのかもしれません。 書き手の「ヘキ」が輝く珠玉のアンソロジーをあなたも是非、この手に。 | ||
推薦者 | 高梨來 |