(前略)
棗3962号は首を傾げ、肩まで下ろしている艶やかな黒髪をゆらゆらとさせた。切りそろえたオカッパは、彼のアーモンド型の目によく似合っている。象牙色のなめらかな肌は傷一つない。いつも彼は人差し指を唇に当てながら「僕たちはヒトに愛玩されるために造られた」と言う。 「どの本を読んでも、ヒトは僕たちと似ていると書いてある。いや、ヒトが自分たちに似せて僕たちを造ったらしい。僕たちは、ヒトと同じような外見で、ヒトと同じように考え、ヒトのように話す。じゃあ、僕たちとヒトの違いってなんだ?」 自問自答する棗3962号に、ルシア463286号が答える。 「そりゃあ、ヒトは俺たちを〈愛玩〉して、俺たちはヒトに〈愛玩〉される。役割が違うのさ」 僕は二人に「じゃあ、僕らはヒトを〈愛玩〉しなくていいの? 〈愛玩〉されるばかりなの?」と聞いた。棗3962号は「それだよ、問題は」と頷いた。 「僕たちはヒトと似せて造られているから、ヒトが僕たちを〈愛玩〉できるのなら、僕たちもヒトを〈愛玩〉できるはずだ」 ルシア463286号は唇を尖らせて「そもそも〈愛玩〉ってどうするんだ?」と尋ねた。クリクリした彼のエメラルド色の目が、僕と棗3962号を交互に見る。 「俺たちには、〈愛玩〉のプログラムがインストールされていない。ヒトがそう決めたんだ。だから、ヒトと似ていても、俺たちには愛玩することがなんなのかわからない。不可能なんだよ、俺たちがヒトを〈愛玩〉することは」 僕は「最後のプログラミングだよ」と自信を持って言った。 「僕らが完熟したら、出荷のために最終の快楽プログラムをインストールされる。それが起動すれば、僕たちも〈愛玩〉できるようになるんだ」 棗3962号が「クリス5963247号は完熟が楽しみなんだな」とため息交じりに言った。僕は「だって僕らは、そのためにここにいるんだろう?」と聞き返した。 「僕らは愛玩少年だから、完熟して出荷されなければ、品質不良品として廃棄される。僕らの存在に意味がなくなる。そうでしょ? だから、僕は早く完璧な愛玩少年になりたい」
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