出店者名 バイロン本社
タイトル 騎士の剣
著者 宮田 秩早
価格 200円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
……天与の使命においてかかる人物だったのがテオフラストである。
 彼は我らが友愛結社に入団こそしていなかったが、『世界の書(ロータエ・ムンディ)』は熟読しており、これによって彼の鋭敏な知は火を点された。
『薔薇十字の名声』より

パラケルススことテオフラスト・ボムバスト・フォン・ホーエンハイムについての、上記『薔薇十字の名声』に書かれた記述から着想を得たお話。

16世紀独逸。
嵐の夜、黒森に近い旧街道のうち捨てられた小屋で、医師は騎士の来訪を受ける。
医師の名はパラケルスス。
騎士の名はハインツ・エルバーフェルト。
ある貴婦人が医師の診察の希望している旨を聞き、パラケルススは往診に赴いたのだが……。

時代の流れに消えていった者たちの物語


新書サイズ/82ページ

「……時代、だよ。騎士の時代が終わっちまったってだけのことさ」
 パラケルススは投げやりに呟いた。
 酒を杯に注ごうとして、もうなくなっていることを思いだし、溜息を吐く。
 ハインツは頷いた。
「そうです。なんのことはない、時代が変わっていたのです。戦いは個々の武勇や忠誠心に依存するものから、数の多さと大規模な武装が勝敗を決するものになっていました。政治は小領主が互いに競って自分たちの支持する王を奉戴するものから、巨大になった王家を官僚が支える時代へと移り変わっていました。時代の流れのなかで……かつての騎士たちは変容せざるを得なかった。規模を求め、商才をもって富を蓄え、政治の中枢に席を求めてときには地位を金で買い……やがて騎士の魂を失って、わたしが殺したようなただの男になりさがっていった。そして、あくまでも騎士の精神にこだわり続けた者たちに待っていたのは、滅亡しかなかったのです。それはエルバーフェルト家のように戦いによる敗亡もあったでしょうが……その身分を維持できずに貧困に喘ぎながら没落していった家も多かったでしょう」
 訥々と語り続ける騎士。
 その穏やかさは、対象を客観視するところから生まれたものではなく、あまりに強すぎる思い入れに流されまいとする努力から来るものだろうか。
 騎士のまなざしに湛えられた煩悶。


人としての生が終わっても、生き方は終わらない
『騎士の剣』は、16世紀ドイツを舞台にした濃密なファンタジーです。
人ならざる者になり、永い命を得てなお騎士であり続けるハインツ。その昔語りを聞く医師パラケルススにも、どうやら秘密があるようで……。

人としての生が終わっても、生き方は終わらない。
ハインツが人間ではなくなったゆえに、かえってそのひととなりが鮮明に浮かび上がるのは、吸血鬼物ならではの面白さでしょう。
騎士の時代の終焉とその寂寥感は、かつて侍がいた国の私たちにも覚えがあるような気がします。
騎士と医者、それぞれの生き方を貫くハインツとパラケルススは、どちらもつらい過去を経験しています。その二人が共感し合えるところに救いがあって良かったです。
(特に44ページ上段のパラケルススの台詞はぐっときました……。ぜひ本でお確かめください)

新書版82ページと決して分厚くはないご本ですが、しっかりした文体で描かれる近世ドイツの空気が濃密で、文字数以上の充実感がありました。
それでいて各キャラクターの言葉にも血が通っていて(吸血鬼物に対して変な喩えかもしれませんが)親しみやすさも感じました。装丁もあがさ真澄さんのイラストも素敵で!
個人的には愛らしいけれど芯が強いリディアや、ちょっぴり(※婉曲表現)シスコンも入ってるハインツが好きです。
別冊「錬金術師の手帳」も付いていて、私のような世界史素人にも親切設計でしたし、全体を通して作者さんの題材への愛着が感じられる作品です。
推薦者泡野瑤子



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