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「……時代、だよ。騎士の時代が終わっちまったってだけのことさ」 |
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『騎士の剣』は、16世紀ドイツを舞台にした濃密なファンタジーです。 人ならざる者になり、永い命を得てなお騎士であり続けるハインツ。その昔語りを聞く医師パラケルススにも、どうやら秘密があるようで……。 人としての生が終わっても、生き方は終わらない。 ハインツが人間ではなくなったゆえに、かえってそのひととなりが鮮明に浮かび上がるのは、吸血鬼物ならではの面白さでしょう。 騎士の時代の終焉とその寂寥感は、かつて侍がいた国の私たちにも覚えがあるような気がします。 騎士と医者、それぞれの生き方を貫くハインツとパラケルススは、どちらもつらい過去を経験しています。その二人が共感し合えるところに救いがあって良かったです。 (特に44ページ上段のパラケルススの台詞はぐっときました……。ぜひ本でお確かめください) 新書版82ページと決して分厚くはないご本ですが、しっかりした文体で描かれる近世ドイツの空気が濃密で、文字数以上の充実感がありました。 それでいて各キャラクターの言葉にも血が通っていて(吸血鬼物に対して変な喩えかもしれませんが)親しみやすさも感じました。装丁もあがさ真澄さんのイラストも素敵で! 個人的には愛らしいけれど芯が強いリディアや、ちょっぴり(※婉曲表現)シスコンも入ってるハインツが好きです。 別冊「錬金術師の手帳」も付いていて、私のような世界史素人にも親切設計でしたし、全体を通して作者さんの題材への愛着が感じられる作品です。 | ||
推薦者 | 泡野瑤子 |