出店者名 まんまる書房
タイトル The magic nightmare ~reunion~
著者 ひざのうらはやお
価格 1300円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
 なんの変哲もない大学生だった真中浮人。彼は突如として「怪異」を「結びつける」特異体質を手にしてしまい、それがもとで幼馴染の志島咲子を失ってしまう。次元の彼方に封じられた彼女を救うため、真中は縦波大学周辺で起こる怪異に立ち向かっていく。ゆるやかな日常の中で、世界の理の歪みを見つめるキャンパスライフ・ファンタジー前編。後編は「GENOCIDE」です。まとめてお求めになるとお得。

第5話「黒髪揃えし霊となりて」より抜粋

 デニムジャケットにタンクトップ、そして下はゆったりとしたカーゴパンツ、頭は白髪混じりの長髪という姿の水嶋准教授は、ぱっと見ただけでは年齢を特定することができない。夏休み明けだからだろうか、全身が小麦色に日焼けしており、廃業したプロサーファーのような、ややクレイジーな風格がある。
 彼の授業はいつもこのような感じで進行していく。間に軽口を挟みながらすらすらと数式を展開して、気が付いたら終わっている、そんなイメージ。
 経済学と言っても、ミクロ経済学は主に経済モデルを数式で構成して、その結果を計算で求めるというものなので、授業としては、大半が数学のようにひたすら数式を計算する、という感じになる。
 そんなわけで、僕らは講義を聞きながらひたすら数式を解いていた。

 それは、急な出来事だった。
 ふと頭に違和感が走って、僕は思わず顔を上げた。

 さっきまで誰もいなかったはずの前の列に、女子大生が座っていた。艶のある黒髪をすらりとのばし、茶色のカチューシャで揃えている。女性らしいもっちりとした体型を包み込む黒いカーディガンの隙間から、ちらりと清楚な白いブラウスがのぞいた。
 あれ、こんな女の子いたっけ。
 そう思った瞬間、彼女が振り向いた。まるで初雪のように白く透き通るような涼しげな肌が目に入る。その顔つきは上品で穏やかであった。赤い縁の眼鏡の奥にあるつぶらな瞳と目があった。
 猛烈な寒気を感じた。身体じゅうの熱を奪われたみたいで、心臓が凍り付いたように痛くなった。

「真中さん!」
 佐貫に肩を叩かれて、我に返った。
 前にいた女性は、いなくなっていた。
「あの、この数式わかんなくなっちゃったんですけど……って、どうしました大丈夫ですか?」
 佐貫は僕の顔を見るなり驚いた。