「Ep.0 狂い咲く不死鳥と戦慄の小悪魔」 より抜粋
この真っ暗な風景は、もう慣れてきている。 夢の中、現実と虚像が入り交じる不思議な空間だ。 僕と咲子との密会場所でもある。 それは時として、時空を置き去りにしてしまうのだ。 「あら、真中」 そこにいたのは、御厨智子(みくりやともこ)だった。藤色のフリルや襞がそこかしこにある豪奢なワンピースは勝負服そのものであるが、別の視点から見れば拘束衣と見てとれなくもない。 総てを超越し、幾世紀もの時を超え、現在まで存在し続けている呪術師。彼女はいつしか人から魔女と呼ばれ、また自らもそう名乗った。
何だ。 この思考は僕のものではない。誰かの知識、思考が直接流入している。それが僕の中で同調し、あたかも僕がそれを追体験しているかのような錯覚。 複数の思考を同時に処理することで起きる混線現象とも言うべきだろうか。それはまさに呪術師がかけた「呪(まじな)い」のように、僕を、私を、世界を縛り付ける。総て縛り付けられているのだ。世の中の法則、理に。
だんだんとわけがわからなくなっていく。いったいどの思考が僕なのだろう。 いや、そもそも、僕は今思考しているのだろうか。
「舞も、とんでもない置き土産を残していったようね。寧ろ、それが彼女の思惑なのかしら」 御厨の重たく低く、冷たい声が僕の脳をゆさぶる。彼女を殺せば楽になるだろうか。いや、そんなことはない殺してしまえそうすれば総てが楽になる御厨は最悪の魔女だ世界はすでに崩壊している僕は汚くなってしまったこれはこれで頭がおかしいむしろふーちゃんはわたしのもの。 誰だ。僕の思考に干渉してくるのは、いったい。 「それは誰のせいでもなく、強いて言えば貴方のせいね」 「ど、どういうことだ」 「その額の角よ」 思い出した。六本木舞に生やされた角。 《力を、挿れるね》 彼女はそう言って僕にこの角を生やした。 脳内に浮かんでくる関係のない言葉を出来る限り消し去りながら、僕は僕を取り戻そうと必死にもがいた。
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