プロローグ(抜粋)
彼は悠然と立ち止まり、腰に提げていた羊皮紙を広げて、書かれている文言を読み上げた。 「エンタウルスの民よ、これは最終通告である。貴殿らは機巧魔術規正法第一五二条七項の三、およびその他十数項に渡り重大な帝国法規の違反を犯した。今この時点で、違反を犯したことを認め、抵抗する意思を放棄したと認められた場合は、罪の執行猶予等の緊急措置の対象となることをここに宣言する。機巧魔術捜査課アルベール・アクウォス正尉。この宣言が終了する前に貴殿等が抵抗する、もしくは宣言終了後しかるべき猶予を待っても抵抗する意思を放棄しない場合は、私以下五名の機巧魔術捜査官が直ちに罪の執行を行うものとする。以上!」 途中何度かフィン砲の砲撃が入ったが、彼の展開する魔術障壁はその程度で瓦解するような代物ではなく、その圧倒的な兵力を数発で理解した敵は、アクウォスの宣言が終わる前に兵機を正面へ向けなおした。 だが、結論から述べると、彼らの行動は明らかに愚かであった。 「五発の砲撃。うち三発が有効範囲内。以上の事実により、機巧魔術規正法施行令第三五一条一項の二に記されている通り、終代皇帝レティスバード・ギルハンスの名の下に代執行を実施する!」 アクウォスは極めて早口で宣言すると、腰の長剣を抜き、十リースほどの距離を二歩で縮め、兵機の正面から砲塔を斬り上げた。 縦に真っ二つに割れた砲塔から、エンタウルスの若き僧兵が驚愕の表情で彼を見つめる。彼が掲げた黄金色に輝く長剣の刀身に尋常でない魔力が集中している――戦闘経験が決して豊富ではない彼らには、その程度のことしか理解できなかった。 次の瞬間。 ぶおん。
アクウォスの振り下ろしと同時に、鈍い爆裂音と強烈な光が辺りを完膚なきまでに破壊した。 兵機の残骸に降り立ったアクウォスは、周囲に敵が残存しないことを確認する。 「――さて、問題はここからだ」 ほんの少しずり落ちた眼鏡を右手の中指で押し戻し、アクウォスはそうつぶやきながら、 {こちらアクウォス。第一関門にて代執行を実施。繰り返す、第一関門にて代執行を実施。以降、エンタウルスの民全員を代執行の対象とする。――始動せよ} と、共鳴石に呼びかけた。
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