一見した時にはどこか冷たい印象を受けるそのまなざしは、ひるまずに見つめ返せばその奥に真摯でやわらかなぬくもりを潜めていることが手に取るように伝わる。どこか自然と警戒心を解きほぐしていくこのたおやかさが、親友が彼に惹きつけられた理由の一つなのだろう。 「良い名前だね、日本ではよくあるの?」 「そんなにメジャーでもないかな、同じ名前の俳優が居るけど」 『海吏』の方がよっぽど珍しい。付け足すようにそう答えれば、喉を鳴らすようにしてくくく、と笑顔で答えられる。 「最初に会った時のこと、思い出すよ」 瞳を細めるようにしながら、彼は言う。 「カイリって女の子の名前じゃなかったっけ? って聞いたら、思いっきり不機嫌な顔して日本ではそうじゃないって言われて。でもやっぱり珍しい名前だったんだね」 「……名前のこと、気にしてたんだよ。日本に居た時、さんざん『女みたい』だのなんだの言われたっていうからさ」 かくいう自分だって、名前だけ耳にした時には女の子だと早とちりしていたのだから人のことはとやかく言えないのだけれど。 「話すようになってすぐ、なんて呼んだらいい? って聞いたら言われたんだよ『カイ』って呼ぶようにって、みんなそう呼ぶからって」 「その前は、なんて?」 「伏姫くん」 答えた瞬間、心底おかしそうにクスクスと笑う声が返ってくる。 「あなたがカイのことそんな風に呼んでたなんて、失礼だけどすごく似合わない」 「日本人にはいきなりファーストネームで呼び合う習慣がないんだよ」 思わずぶっきらぼうにそう答えるそのうち、出会ったばかりの頃のカイのあの姿がまざまざと蘇るのを感じる。 まだ幼さを残した物憂げなまなざしに、ちっとも似合わないスクエアフレームの紺の伊達眼鏡。どこか怯えたようにも見えたぎこちない仕草のひとつひとつに、ひどくぶっきらぼうに投げかけられる言葉たち。 ああ、そういえばこちらから名前を教えるまではいつも『おまえ』呼びだったっけ。家族や恋人に呼ばれる時と同じ呼称で呼ぶことを許してくれたのは、彼にとってはもしかしたら、よっぽどの大きな決断だったのだろうかなんて。
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