出店者名 宇野寧湖
タイトル 白蜥蜴の夢
著者 宇野寧湖
価格 800円
ジャンル 恋愛
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紹介文
文庫フルカラーカバー(オフセット印刷)、本文モノクロ282頁(オンデマンド印刷)。

【小説】高校で英語教師をしている聖羅は30歳の誕生日を迎えた。友人も恋人もいない孤独な日々を穴蔵のような古アパートで過ごしている。 「自分を変えたい」と決意して、「処女を捨てる」ことにした。春の陽気の中、SMバーに迷い込んだ聖羅は、同じ学校に勤務する「保健室の先生」に遭遇。彼との一夜を迎えることになり…… 「取り返しのつかない過去」を抱えながら生きる女性の「回復」と「赦し」の物語。

【長めの本文サンプル】 http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6482849

【サンプル1】プロローグ

 洗面所の鏡に映った自分を覗き込む。落ち窪んだ目、その下は濃いクマ。化粧っ気のない乾いた皮膚は確実に老化が始まっている。高峰聖羅(たかみねせいら)は今日、三十歳になる。子どもの頃は三十歳の女性が大人に見えた。現に今の自分は大人としか言いようがない。大学を卒業してすぐに就職した女子高校で英語教員として七年働いている。とっくの昔に新人と呼ばれる時期は過ぎ、これから後進の指導に当たる中堅の職員として期待されている。
 そっと指を立てて鏡に映る影に触れる。鏡面越しに自分の人差し指同士が重なる。安アパートのくすんだ鏡に指紋がついた。それをゴシゴシと手でこする。大人であるはずの自分の顔に、まだ子どもの陰が残っている気がする。卑屈にこちらを眺めている無力な子ども。その子の影を消してしまいたい。
「もう、私は大人になる」
 自分に言い聞かせるようにつぶやいた。薬局で買った三百円の口紅をプラスチックの梱包から出す。カサついた唇を塗りこめるようにグイと押し付けた。荒れた皮がボロボロと逆立つ。真っ白な画用紙にクレヨンで描いたように不自然な赤。ため息をつくとタオルで拭き取った。口紅を一つ塗れない。それが高峰聖羅だった。
 鏡の表面がグラリと歪み波打つ。そして、三十歳の自分の顔は大理石の石像のように脱色され、鋭く尖っていく。骨ばった頰が高くなり、小さな口が突き出て爬虫類じみた顔になっていく。ザラザラとした皮に覆われ冷たい瞳がこちらを見つめている。いつもの幻像だ。自己嫌悪が強くなると、聖羅は自分の顔が真っ白なトカゲに見えてくる。背後の古い木のドアがボコッと膨らんで赤い蛇の巨大な顔が飛び出してきた。白トカゲの自分を食いちぎろうとしている。
 目を閉じて息を吐いた。脳が見せる幻想を抑え込む。そして、もう一度まぶたを開いた。目の前にいるのは凡庸で痩せぎすの三十歳の女性。
「私は変わるのよ。過去に縛られるのはたくさん」
 そう言うと、長い黒髪を一つに束ねた。薬局で買った一箱のコンドーム。性交するときに、女性が用意するものかどうかも聖羅は知らなかった。
「処女を捨てるわ」
 鏡の向こうの影に言う。小さな白トカゲが洗面台の脇を走り去っていったような気がした。


ぐいぐい読めます
さいきん読むのも書くのもBLばかりで男女の恋愛小説はひさびさでしたが、夢中で読みました。
聖羅にしろ明人にしろ、きちんと能力を持っている大人で、作中であれこれ起こる問題に経験と技術で対処していく。そのさまは爽快なほどで、エンタメとして面白いのです。恋愛小説ではあるのですが、惚れた腫れた以外の部分でもとても厚みがあるので、ぐいぐい読んでしまいます。
甘いシーンはトラウマ持ちの聖羅の回復に繋がっていて、ヨシヨシ感に癒され萌えました。もともとポテンシャルを持っている人が開花していくシチュエーションが好きなので、外見も内面も変化していく聖羅を見ているのが楽しかったです。
推薦者まゆみ亜紀

一歩ずつ、先へ。
トラウマを乗り越えて自立をこころざす聖羅の足取りや葛藤を丁寧に描いた物語。トラウマの克服というのは、過去の記憶やそこから連なる今をぶちのめしたり否定したりすることではないのですね。

本編にも登場するマッサージのように、滞りをなくすとか、ほぐすとか、そういうことに近いのだなあと感じました。トカちゃんと牧野先生がすごく好きで、読んでいる途中はずっとハラハラしていたので、ラストにはほっとしました。足元が豊かな土になったなあ、と思えて。

フィクションなのですけど、「母」の描かれ方に考えさせられました。私は幸運にも呑気な学生時代を過ごしたけれど、娘や、友だちがこういった問題に直面したとき、自分の立場から逃げ出さずにいられるだろうか、怖くもあるのです。完璧な対応など望むべくもないけれど、せめて逃避や責任を子どもたちに押しつけるようなことはしないでいられたらなあと思います。今この本を読めて良かったです。
推薦者凪野基

すべての「生存者」たちへの贈り物
大人とはある一定の年齢となれば、何か特定の経験を積めば自ずとなれるものではなく、みな不完全で危うい子どもの自分を覆い隠す仮面を付けて演じているだけなのかもしれない。
成長過程の危うい体と心を持て余した思春期の少女たちを保護者から一時的に預かる「学校」という場を主に舞台としていることから、受けたのはそんな印象でした。
自分を変えよう、と踏み出した聖羅はひょんなことからサディストだという保険医の先生、秋人と恋人になるのですが、凝り固まった聖羅の体と心を文字通りほぐしてくれた秋人もまた、表の顔である「保険医」と裏の顔である「サディスト」の仮面の下で、癒えない傷を抱えた子どもであることが示されます。
大人とは結局は幾つもの傷を抱え、時にそれをやり過ごして、それでも生き延びることを諦めなかった生存者であり、今現在もがき苦しむ子どもたちに出来ることがあるとすれば、彼らに真摯に向き合い、寄り添うことなのだろうか。
問題を抱えた生徒たちと向き合うことは、かつての少女だった自分と共に生き続ける聖羅への問いかけのように重くのしかかります。

重いテーマを扱ってはいますが、空想と現実の世界を行き来しながら、初めての恋人や友達との関係性の築き方、はたまた自分らしいスタイルの見つけ方に四苦八苦し、時に空回りする聖羅はとてもチャーミング。起伏のある展開と個々のキャラクターの魅力を軸に、どんどん読ませる力に溢れています。

逃れられない過去を受け入れ、赦すこと。本当に大切な物を選ぶこと。
不完全な思いを預けあい、時に傷つけあいながらそれでも「誰か」と共に生きることを通して、聖羅は自身の生きる道を見つけ、自分を守ってくれた空想の世界を手放す決意を決めます。
自分の居場所を、手に入れられるかもしれない安寧を手放してでもすべきことを追い求め、旅立とうとする聖羅の姿はどこか、物語の虚構の世界を通して違う人生を生き、そこからまた現実へと戻っていく私たちにも重なるよう。
全ての「生存者」たちへの優しいまなざしに心を掬われるかのような、とても優しい物語でした。
推薦者高梨來

大人というのは子供に見栄張ってがんばる生き物でなければならないというのが第一の感想。
先生群と生徒群。まだ未知のものとかつてそうだったものの対話。現実と幻想の対話。本音と建て前。

聖羅は自分の事がわからない、他人のこともわからない。わからないなりになんとかなってきてしまっている。けれどそれを平穏だと自分を騙せず、ついに1歩踏み出す。踏み出し方がふるってる上にナナメ上で、着地がうまくいったのは本当にラッキーとしか言いようが無いけれど期待は確信になる。ここから彼女の再生はスタートするのだと。
幻覚と(自覚あるまま)話し、何度も内省を促される聖羅。けれど、それまでずっと同じ職場だったはずの職員室には友人ができ、学内の保健室には恋人がいる。同じ世界のままなのに、歩を進めれば違う様相が見えてくる。合縁奇縁といわれるもの。生真面目すぎる聖羅の、周囲との斜めな問答は、彼女を応援したくなる仕掛けであり、テーマの割に明るく読めるのはコミカルな会話劇があるからこそ。そして幻覚も夢も最初のおどろおどろしい対話から滑らかに戯画化され、決着のシーンはむしろ童話のよう。聖羅の内面の変化は聖羅の視覚の中でも姿を変えていく。
もちろん一直線にうまく行ったわけではない。行きつ戻りつ、そして外を向いたことによって友人の、恋人の、生徒の、上司の、苦しみや間違いも流れる風景から本流の中へと身を置くこととなり聖羅も傷つく。けれどそれも聖羅の糧となる。
教師として大人であり、内面に子供を引き摺ったままの聖羅という女性の、選択と成長がとても清々しい物語。
R18ですがその辺りの場面はそんなに多くないですし描写も短めなので気になる方はぜひ。

ところで(ここから素)、サディストって触れ込みだった保健室の先生はエー、むしろMだよねこの人……。
あと、個人的に《初めての友達》牧野先生にはがんばって欲しいです。応援。共依存の気持ちよさから抜け出すの、すごい決意だと思う。これも大人が子供に見せたい虚勢。空威張りでも、心は震えていても、子供に安心をあげたい気持ちは本物。聖羅さん、友達大事にしてね。
推薦者まるた曜子



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