出店者名 暁を往く鳥
タイトル いと - へん【糸 - 偏】
著者 砂原藍
価格 200円
ジャンル 掌編
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紹介文
『糸』偏の漢字にまつわる、さまざまな人生模様を書く短編小説集。

『糸』
『紡』
『縫』
『縁』
『組』
『結』の6編を収録。

A5判・表紙込み28頁。

  【糸】
 何もかも、以前のように戻れる。
そう思っていた。
現実は違った。
残されたのは、投薬が必要な身体と鎖骨の少し上を真横に走る6センチの傷痕。
抜糸が不要な分、身体に負担はかからない。
溶ける糸で縫合されていても、手術をしたことは目に見えて明らかだ。

 この傷がわたしの生きる証になると、ひとは言う。
死ななくてよかったじゃないかと、誰かの声を聴く。
そんな簡単に割り切れるものではないのに。

  【縫】
 共働きの両親を持つ一人っ子の私は、祖母に預けられることが多く、よく手仕事を眺めていた。
母は「危ないから」と私の前では縫物をしない人で、小学校中学年ぐらいには、
祖母の真似事をするようになった。
さすがに普段祖母が使う仕事道具には触らせてもらえなかったが、初めて指ぬきをもらった日には嬉しくて寝つけなかったほどだ。

裁縫を習う時には、祖母が『周りに合わせなければ』と、流行のかわいい裁縫セットを学校経由で一括購入した。
道具の手入れ方法は祖母が教えてくれた。
「手入れして長く使えば、次第にさつきの手になじむからね」
祖母はそれからも時折、繰り返し私に言い聞かせた。

  【縁】
 家を建てようと決めた時、夫は言った。
「縁側が欲しいなぁ……」
「えっ、書斎じゃないの?」
一人になりたい時もあるだろうと、お互い二畳か三畳分の小部屋をそれぞれ作るつもりでいた。
それに男の人は本を読まない人でも、書斎を欲しがると既婚の先輩や友人、そしてお互いの親からも聞いていた。
「それもいいんだけど……」
「何?」
「……縁側で、ひなたぼっこをしながら、猫を撫でまわしたいんだ……」
夫は若干、照れながらつぶやいた。


漢字の成り立ちを思う
糸偏の漢字をテーマにした短編集。
その性質のせいか、人と人との繋がりや関係性を密に描いたものが多く、淡々とした語り口ながら、細やかな感情描写が心地よかったです。「縫」が好きです。
推薦者凪野基



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