出店者名 赤卒文庫
タイトル ふたごもりの家
著者 良崎歓
価格 300円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
文庫/90ページ

文学フリマ岩手開催記念アンソロ掲載の「ふたごもりの家」を中心に、和のあやかしと人間の絆や恋愛を描いた短編集。異種婚好きな方におすすめです。

収録作は5編。
「ふたごもりの家」「玉繭の庭にて」は、山奥の家に迷い込んだ娘と、家の主であるあやかしのお話。
「ぼくはいつまでもきみのねこ」は、老猫と飼い主の少女の出会いと別れの春。
「片翼の鴉」は、人の世に墜ちてきたショタ天狗と、それを拾った女子大生の秋から冬。
「浜百合の道行き」は、脱走する座敷童と、その共犯となる青年の、涼しい夏の一日。
「玉繭の庭にて」は、「ふたごもり〜」の後日談。二人のその後の暮らしぶりなど。

【「ふたごもりの家」より抜粋】
(略)
「そんなら、俺を飼ってみないかい?」
「か、う?」
 うんうん、と、セツが頷く。
 紫は、目の前の青年をまじまじと見つめた。
 セツは今、自分のことをまるで犬猫のように言ったけれどとてもそうは見えぬし、もちろん頼まれたってそんな扱いもできるはずがない。
 では? と、紫は考え込む。人間を飼うというなら、紫が村でされていたような仕打ちをすればいいのだろうか。それは、セツにはどうにも似合わない気がするのだけれど。
 結局、紫はセツに尋ねた。
「飼うって、どういうことでしょう」
「お前さんは、麓の蚕飼いの村から来たんだろ? お前さんの家でも飼ってたかい?」
 確かに、紫の村は養蚕が盛んだ。最後に暮らした屋敷の主人も、織物の商いで身を立てたのだと聞いたし、実際に糸を紡ぐために今も蚕を飼育していた。そして、つい先日までは、その世話が紫の主な仕事だった。
「お蚕さまのことなら、ひととおりはできます」
「そうか、そりゃァよかった」
 セツは、ぽんと膝を打った。紫の方へにじり寄り、顔をのぞき込んでくる。
「俺は蚕の成れの果てなんだ。羽はあるが飛ぶことは出来ねえ。人の手がなければ生きていけねえ。繭になるまでは誰かに世話してもらわなきゃァ」
「だから、『飼う』ですか」
 蚕は家畜だが、里では同時に家に繁栄をもたらす存在として崇められてもいた。
 繭から出てくると姿形がすっかり変わっているのが、紫にとっては不思議でもあり、また好きなところでもあった。周囲の大人に尋ねると、『お蚕は繭の中で一から体を作り直すのだ』と言う。辛い日々の中、ならば自分も蚕になりたい、繭に入って生まれ変わりたいものだと、自分を励ます日も少なくなかった。
 セツが蚕だというのなら、彼のために精一杯尽くそう。紫の腹は、そう決まった。
(つづく)


あたりまえのその先に。
あやかしと人との時間を描く短編集。甘くて(一部塩対応)きゅん成分もたっぷり、なんだけど両者の差異を思うとほんのり切ない。過ごす時間が違う、文化が違う、世界が違う。
別々に暮らすのが道理かもしれないけれど、理屈ではない、心の強さと熱さにうるっときます。

ところで、「異界の食べ物を口にして異界に取り込まれる」のは浪漫だと思います!しあわせなカップルに幸あれ。
推薦者凪野基



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