【「へづねぇどぎは二人旅」より】
久々の帰省だった。 十年ぶりに歩いた駅前は、昔と変わらぬ風景と、再開発が進んだ地域とが入り交じっている。あったはずのものがなくなり、新たなものが建ち、人の流れが少し変わったように思えた。 特に千秋(せんしゅう)公園の向かいの、なかいち、と呼ばれるあたり。昔はやや暗くて寂しい印象だったものが、明るく開けた街へと変貌を遂げていた。イベントの幟や真新しいオブジェは目にも鮮やかだ。行き交う人の数も記憶にあるよりも随分多い。 そんなぴかぴかのオブジェ――マンガのように目が大きく、可愛い顔立ちのそれは、どうやら狐のようだ――らしきものの傍らに、彼はスケッチブックを持って立っていた。 学生服はともかく、学帽なんてバンカラな高校でも応援団くらいしか着ないだろうに。増して、平日の昼下がり、学生なんて居るはずもない時間帯。明るい街に、ひとつだけの黒い姿はよく目立っていた。 私が「ちょっといいですか」と声をかけると、彼は目深にかぶった学帽の下から目線をくれた。少年と青年のあわいに立つほどの年格好、色素の薄い髪と、涼しげな印象の切れ長の瞳が垣間見える。 「どうぞ」 「東根に行きたいんですよね」 「んだ」 見た目の若さに似合わぬネイティブな秋田弁が返ってきて、私は面食らう。それを悟られぬよう、続けて尋ねた。 「私、東根に住んでて、これから帰るところで。車で三時間かかりますけど、それでもよければ、乗りますか」 「さんじかん」 「ええ、多分それくらいで着くかと」 「そいだば、はえぇな!」 少年は目を輝かせて笑う。そして、私に向かってぴょこんと頭を下げた。 「頼む、乗せでけれ」
(略)
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