出店者名 ゼロタビト
タイトル 雪の果てに春を待つ
著者 飛瀬貴遥
価格 600円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
新書判サイズ横長本/36ページ/ファンタジー/せつなめ/読み切り
――――――――――

 〈氷雪の魔女〉リオーツは、雪と樹氷に包まれた地で〈騎士人形〉を創っている。
 創られた命は短い。けれど、〈騎士人形〉は主人と決めた者と契約を結ぶことで延命することができた。
 しかし、〈騎士人形〉シェーヴェルは、契約を結べずに〈氷雪の魔女〉の元へ戻った。

 ――己の主人は、この御方だけだ。

 声を無くした〈氷雪の魔女〉。
 彼女を主人としたい〈騎士人形〉。


 ふたりは雪の果てに、春を待つ。

【魔女の記憶】

「リオーツ様、ありましたよ」
 ぎゅっ、ぎゅっ、と雪を踏みしめて先を歩いていたシェーヴェルがこちらを振り返る。彼が指で示す方へ目を向ければ、〈雪掻ける大角鹿(スィニローク)〉の平たい角がひとつ転がっていた。
 足早に近寄ってそれを手にとった彼は、残念そうに少し表情を曇らせる。
「ちょっと小振りですね」
 重さを確かめてからそう言うと、どうしますかと問いかけてきた。
 リオーツはそれにうなずきで答える。遠い昔に声を無くしてから、紙があれば筆談で、なければ身振り手振りで意思を伝えていた。
「わかりました」
 言葉がなくてもこちらの意図を汲んで、シェーヴェルは軽々と角を担ぎ上げた。さすがは〈騎士人形〉というべきか。手伝いとして連れてきて良かった。〈騎士人形〉がいない時には自分ひとりで行っていたものの、角を背負って帰るだけでも一苦労だった。
「他に必要なものは?」
 その問いかけには首を横に振ることで答える。
 ここに来るまでに他の欲しい素材は採取してあり、残りはこの角を採取するだけだった。いくら探しても見つからず、半ば諦めかけていただけに、思わず浮足立ってしまう。
 あとはもう家に帰るだけだ、とくるりと踵を返して歩き出そうとすれば、後ろから慌てたように足音が近づいてきた。
「お待ちください、リオーツ様。危ないので先に行かないでください」
 言葉と共に手首を掴まれて、リオーツは彼の顔を見上げた。そこに浮かんでいるのはいつもの無表情なのに、その瞳には心配の色が浮かんでいる。
 ここでの危険といえば〈雪掻ける大角鹿〉のような大きな獣に遭遇した時くらいだが、獣たちも頭が良い。向かってこられたらひとたまりもないが、ほとんど人前に姿を現すことはないので、危険も少ないのだ。だからこそ、獣たちの持つ角や爪、毛皮といったものを採取するのに時間がかかってしまうのだが……それはまた余談である。
 どこか心配性なシェーヴェルにこれ以上の心配をかけさせるわけにもいかず、リオーツは苦笑を浮かべた。




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