スリッパの音。に、顔を身体ごと背けた。勢いで脱がされたときとは違う。まるで好んで裸で待っていたみたいで心のやり場に困る。 「はずかしいの? 裸なのはおれもいっしょだよ、」 そういう問題じゃなくて。 松本さんは 「見えてないし」 と下手に腰をかけ、ヘッドボード(っていうんだっけ)に手を伸ばしてメガネとコンドームを置いた。腕を回されるのかと思った。 そっか、持ってたんだ。松本さんはいつからそういうつもりでいましたか。と稲塚さんにこの質問をしたら小さくなってしまっt 耳の内側が敏感なのを松本さんはもう知ってる。首筋をつたった指が下唇を撫で、口に深く割り込んできた。 「おれのわがままを真似してみない? 怒んないから」 うん。と頷く拍子に指を飲みそうになる。指を抜くポーカーフェイスは口角をわずかに上げた。気がする。 「じゃあわがまま言うよ。嫌なら嫌ってわがまま言うこと」 頷くのとどちらが早いか耳に湿った息がかかる。 「どうして禁煙したかわかる?」 まさか。 「新人さん紹介探したんだよねー、社内報。わがままかもしんないけど抱きたい。いい?」 この問いに対する「うん」は明確な合意であって相槌ではない。ずるいな、と思ったけど嫌というほど嫌ではない。同時に、上手に断るには難しい相手なんじゃないかと思った。ら、 「何かいっこわがまま言って」 咄嗟に思い浮かばず、痛くしないでと言った。 「粘膜が弱いのかも、肌も薄いし」 その場で平気だと、後から時間差で痛くなってもノーが伝わらない。次回があれば、あの時平気だったじゃん、感じてたじゃん、と、口で言われなくても伝わってくる。ばーか。 松本さんはどうだろう。納得したように何かつぶやいて、私をベッドに横にした。 あ、はずかしい。ブラインド越しの騒々しい灯りに裸が浮かび上がる。 松本さんは、結び目を確認するように手首に触れた。腕の内側を撫でられる。くすぐったい。ネクタイが衣ずれの音を立てた。 絡まない指を絡められ、乾いた唇で腕をなぞられて身体がこわばる。左右の鎖骨を内から外へ、両手の指先で確かめて、その手を乳房へと這わせ、包み、 「寄せてー」 持ち上げた。 「上げる」 呆気にとられていると、にわかに手に力を入れ乳房を掴み潰して 「小さく見せるブラ。って需要あんの?」 笑みをこぼしたら、松本さんは 「楽しい?」
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