出店者名 月刊さかな
タイトル 恋する鉄塔
著者 そらとぶさかな
価格 400円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
灯台、時計塔、鉄塔という、『塔』が主人公の一風変わったファンタジー短編集です。
感情ゆたかな無機物たちの物語をお楽しみください。
※前回あまぶんで『さびしがりな灯台の話』をお買上の方には、百円割引とさせていただきます。

<収録作品>

・『さびしがりな灯台の話』
 灯台なのに寂しがり、という変わった灯台が、他者との交流の末に気づく事とは。

・『時計ネコ』
 自信家の時計塔は、ある日現れた子ネコの人気に嫉妬してしまい、町を揺るがす大騒動を引き起こす。

・『恋する鉄塔』
 その日、鉄塔はノイズの向こうから聞こえた声に恋をした。ひたむきな恋のお話。

【さびしがりな灯台の話】

 あるところに、灯台がいた。
 白くて大きな灯台で、背はそこまで高くないけれど、海のかなたまで照らせるきれいなレンズを持っていた。
 そして灯台は、とても、さびしがりやだった。
 灯台は海に面した山はだの崖に、たった一人で建っている。
街へ続く一本しかない道は、山を越えていく時間のかかる道なので、ひとが訪れることは滅多にない。
 近くにはむかし灯台守たちが住んでいたいくつかの家があって、みんな灯台とも仲が良かったのだけど、ずいぶん前に無人になってから家達は言葉を無くした。その時からずっと灯台は一人だった。
 誰も来ない場所。聞こえるのは、鳥たちの声と風の吹く音。見えるのは山と空と海。
そんなひとりきりの毎日が、灯台は心底つらくて、大きなレンズがくもってしまうほどだった。

【時計ネコ】

 とある町に、鐘のついた立派な時計塔がいた。
 レンガ造りの時計塔は、町で一番背の高い建物である。毎日、決まった時刻に自動で鐘を鳴らす仕組みになっていて、その鐘の音はとても美しかった。
 時計塔は、ステンドグラスの見事な教会と一緒に建っていて、教会に通う町の住人だけでなく、やってくる観光客にも人気だった。
 毎朝、時計塔は鐘を鳴らし、ミサの時刻を町中に知らせる。
「さあ時間だぞ! 早く集まるんだ!」
 澄んだ鐘の音を聞いて、人々が早足で教会に集まる。時計塔は人々を見下ろしながら、満足して言う。
「ああ、今日も良い音だ! おれはなんて素晴らしい音を持った時計塔なのだろう!」
 時計塔は、自分が町で一番高く、また自分の鐘を基準にして町全体が動いているという事を、とても自慢に思っていた。

【恋する鉄塔】

 あるところに鉄塔がいた。
 そんなに背は高くなくて、ちょっと太めのフォルムに、立派なパラボラアンテナを持った鉄塔で、様々な電波を受信する事が出来た。
 鉄塔は川のそばの施設に建ち、周りにはたくさんの鉄塔仲間がいて、互いに協力しながら、毎日色々な電波を聞いていた。
 ある日、鉄塔は強いノイズを聞いた。ただのノイズかと思ったら、ザーザーと鳴る中にかすかに、声が聞こえる事に気づいた。
 それは歌だった。この場所で長い間電波を聞いてきた鉄塔でも、初めて聞く歌だった。
 その声は人間達の作る電波ではなく、同じ鉄塔の声のようだった。本当にかすかなので、何と言っているのかまでは聞き取れない。
 だが、声は澄んでいて、美しかった。
 晴れ渡った早朝の青空や、透明な水溜まりみたいだと鉄塔は思った。