青犬は、舌まで青い。 その青い舌が私の足をちろちろと舐めるのである。そして合間に見上げる顔の、潤んだつぶらな瞳が私を捉えて離さない。つやつやとした短めの毛並みはまだらのグレーだが、その下には鮮やかな青い皮膚が透けて見えている。 『青犬』里居絵裏子
ささくれ立った畳に、頬を押し付けて寝転がる染蔵の頭上を、長くて白い足がまたぎ越していった。 「……人の頭の上を通らない」 染蔵はその細い足をペシリと叩いた。いやん、と足の持ち主が身をくねらせる。 その声色と、足に触れた指先のザラリとした不快な感触に、思わず鳥肌が立つ。そう、これは男のすねだ。 『サクラメント心中芝居』蒲刈七緒
妻が魚を産んだ。嘘じゃない、本当だ。 それはある夜、妻と二人で夕食をとっている最中のことだった。彼女は、あ、とつぶやいて、スープボウルの中にぽちゃんとスプーンを落した。 スープに虫でも入っていたのかい。僕は妻にたずねた。 「産まれるわ」妻は一言そう言った。 『小魚ジョージ』矢口水晶
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