出店者名 ヰスタリア会
タイトル 中島敦トリビュート 光と風と夢の続き
著者 亜來、浅見幸衛、矢口水晶他
価格 400円
ジャンル 掌編
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紹介文
メンバー有志による、中島敦トリビュート本です。4篇の小説を収録しました。
『彼女の静かな咆哮と爪痕』亜來
『身に巣くう、文字』蒲刈七緒
『夢見る者の傍らで』浅見幸衛
『八戒の憂鬱』矢口水晶

「私が虎になったら、選択肢は三つ」
 七瀬は、指を三つ立てて小首を傾げた。束ねた艶やかな黒髪がさらりと揺れる。空調が適度に効いているこの教室では、汗とは無縁の時間を過ごせている。
「大人しく食われる、逃げる、私を殺す。三つに一つよ。さあ、あなたならどうする?」
  『彼女の静かな咆哮と爪痕」亜來

 人が死ぬことを怖がるのは、自分が生きてきた人生が、まっくらに消えちまうのと、……自分ですら、気付かずにいた、心のざわめきに、恐れをなすからじゃ、ないかねぇ。
  『夢見る者の傍らで』浅見幸衛


「さあ、やってみろ、八戒! 全身全霊の気持ちを込めて、龍になりたいと思うんだ!」
 ある日のことだ。昼餉を終えて師父が松の木の下で休まれている間、俺は悟空に原っぱへ連れ出され、変身の術の練習をさせられていた。少し離れたところで、草の上に寝転んだ悟浄が俺たちの様子を眺めている。
「いいか、心の底から本当に、本当に集中するんだ。全部の雑念を捨てて、とことん、本気になるんだぜ」
  『八戒の憂鬱』矢口水晶