1 そろそろ 入れて イイですか
ちょっとした気まぐれで誘ったと思われたら心外だ。 並んで歩く、少しだけ俺より背が低い華奢な彼のことを、実はずいぶん前から気になっていた。少し俯き加減の後ろ姿、遅い時間になると画面を見ながらガリガリ爪を噛んでいたり、伸びをするときにはいつもアロハの指になっていて。週末の帰り際だけレッドブルを買ってたり、かわいいな、なんて思ってしまうとどうにも目が離せなくて。思わずキスしてしまったけど。
2 ちんちん電車で行きましょう
旧国鉄、昭和50年代に作られたキハ40形は大袈裟な音を立てて線路を進んでいく。端っこが錆びついた四角い樺色の車体は、きっとまわりの深緑の森林と碧い海によく映えるんだろうな。 「すみません」 窓の外を眺める僕に、 「はい?」 カメラを向けた彼が声をかけてきた。 「きみも写真に入れていいですか?」 いいですか、なんて言いながら振り返った瞬間にシャッターは切られていて。 「ありがとう」 その写真は今もリビングに飾られているけど、そのときに「ありがとう」といったあなたの笑顔はあまりに眩しくて、僕はきっと、その瞬間に恋をしたんだと思うよ。
3 なんだか気になる
それは四時間目が体育のあとの昼休みやったりして。オレらは女子の胸の大きさについて喋ったりしとって。 「あーっ、ムラムラするわーっ」 ちゅうと吸い取ったオレンジジュースはもうすっかり空っぽで、ズズズと安っぽい音をだす。 「見た? 森ちゃんのユッサユッサ」 「見た見た。あれでスク水はアカンわー。反則やろ」 なんて、てめえのカノジョでもないのに好き勝手いう。 そしてそんな話には興味がないのか、ヘッドフォンをつけたままハードカバーを読んでるヤツがひとり。
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