《おおい、そろそろ交替しよう》 青年は櫓の下からの声に、視線を下ろした。 幼いころからともに育った、三つ年上の男が梯子を登ってくる。 革の手袋に覆われた手を伸ばし、彼を引き上げてやる。 《雪、積もったな》 《ああ……。でも、もうそろそろやむんじゃないか》 ふたりは櫓の端に据えられた松明のそばの腰掛けに座り、火に手をかざしながら見下ろす。 九月。すでに初雪から十五日が過ぎ、冬が瞬く間に始まっている。 刈り終えた田を、すこし登った段丘の突端にある村から、彼らは雪の降り続く平原を見張っている。 《そうかな……? しかし、おまえの先読みは当たるからなあ……》 青年は雪片のゆくえに目を凝らす。わずかに、降り落ちる雪の濃さが薄くなっていくのがわかる。 つぶやいているあいだに、平原の向こうから、地を這い上るように風が吹き上がってくる。ふたりは目を細め、閉じて、手庇を作って、ふたたびひらく。 《……おい》 雪はやんだ。 青年たちは立ち上がり、同時に梯子に殺到しようとして、肩をぶつけ合う。 《あ、くそ、おまえ先に行け》 《――ああ……――》 《おおい、だれか!》 青年のひとりは櫓の手すりに駆けつけ、そこから村の家々に呼びかけた。 《至急村長を呼んでくれ!》 《……どうした?》 ちかくの竪穴住居から、村人が出てくる。先に梯子を急ぎ降りた青年が叫んだ。 《田のなかに、女が立ってる! 環人たまきびとだと思うが、下着一枚だ!》
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