風の絶えた、厳寒の早朝。 薄明がするどく雪原を照らす。 すべてが死滅したような静寂のなかで、しかし、雪原の手前の森では、三千の兵が白く呼気を立ち上らせていた。 小刻みに聞こえるのは、寒さに耐えかねた人馬の足踏みの音。きしきしというその音は、針葉から雪が落ちる音とまじりあい、重なり合ってさざなみのような震動を起こしている。 その震動が向かう先は、雪原に黒くそびえる城。そして、その前に広がる敵陣。 突如、一打の号音が鳴り響く。 「ものども――前へ!」 進軍の太鼓とともに、甲高い少女の声が放たれた。 騎士、歩兵、弓兵―― 黒い影となって、兵馬がなめらかに前進する。 「構え!」 ざ、と一斉に得物が構えられる。 高らかな蹄の音とともに、松明を掲げた馬上の少女が戦列の前に飛び出すと、くるりと機敏に自軍を振り返る。 赤い炎に照り光る、うねるような黒く豊かな巻き毛。太い眉と、大きく丸い眼。 「待ちに待ったときが来た!」 応、という鯨波が湧く。 「汝らがここにいるはなにゆえか!」 「――すべては、われらが女王の御為!」 間髪おかず兵が答える。 「悪しきゾーネを滅ぼすは、なにものか!」 「われら隼の騎士!」 「武勇と命を持って、陛下に仕えよ!」 「応!」 「敵は尽く殺せ!」 「応!」 「行く手を阻むものは、尽く叩き潰せ!」 「応!」 「戦いの間荒掠に走るものは!」 「味方の手で殺す!」 「怯懦に逃げるものは!」 「味方の手で殺す!」 「風も通らぬほどに密集せよ!」 「応!」 「嵐のごとく疾駆せよ!」 「応!」 どん、と再度太鼓が鳴る。 「――進撃!!」 地鳴りのような鬨の声とともに、女王を救出するための戦が始まった。 指揮したのは――無論、数多の臣の補助を得て、だが――当時十一歳の、女王の妹である。 彼女の年齢に不安を覚える者は、その場にはいなかった。
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