出店者名 弥乙澪
タイトル 笑顔で前を向けるまで
著者 弥乙澪
価格 450円
ジャンル 純文学
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紹介文
いじめを原因に、小学六年生で転校することになった悲観的な少女、森野由麻。新しい学校でもなじめず孤独を感じていた。

文庫本サイズ/一巻完結/104頁/くるみ製本/カバー付き

 どこで道をまちがえたのだろうか。広い教室の片隅で、ずっと考えていた。こんな毎日が始まったのは、いつからだろうか。ランドセルから石ころが山ほど出たのは覚えている。それが何年何月何日のことだったかはもう忘れた。K小からS小への転校は、きっとしなくてよかった。だって引っこしが発表された瞬間、みんなが幸せそうに笑った。
―森野、いじめが原因で出て行くんやって―
 頭の中には毎日のように同じ映像が流れた。わたしが黒板の前で震えている。
「森野由麻です、K小から来ました。よろしくお願いします」
 転入してきた日、のどから出たはずの音が誰の声だかわからなくなった。何でこんなところにいるんだろう。何でみんな、こっちを見ているんだろう。疑問ばかりが頭の中を走りまわって、気づけば席についていた。
 幾度となく、自分への問いがくり返される。ここでやっていけるか、と。わたしはその問いに答えられない。不安だけが募るばかりだ。もう六年生だしグループも出来ている。その中に急に入るなんて、到底できない。もし入れたとしてもきっと話は通じない。今思えば、ばかなことをしたものだ。人間関係がいちばん大切なはずなのに、六年生にもなって転校なんて。
 さいわい四組には本が置いてあった。トムソーヤを読みながら、誰かの声かけを待っている。友達をつくる時はいつもこうだ。自分から話しかけることがどうしても出来ない。クラスメイトは一人としてK小を知らない。前の学校でのわたしを知らない。後ろの扉から最も近い、この右端の目立たない席で、息を殺して地味な転校生をやっている。
 逃げてきた。こんなに暗い性格なのに転校をした。どこに行っても同じだと、ここに来てから三日で気づいた。となりの町で居場所をなくした透明人間の森野さんが、新たな仲間になりました。どうせ見えないから無視をしましょう。そんな雰囲気。本の中身だけが進んでいく。トムは強くて勇敢だ。ため息が出る。どこにいっても、わたしは何も変われない。
「森野さん、ドッチボールしよう」
 急に声がかかった。このクラスでは目立つ存在の市川さんだ。快活そうなショートパンツに、大人っぽい目鼻立ち。長い髪は高い位置で一つに束ねている。ドッチボール、と小さく聞いた。
「うん。足りひんねん、あと一人でちょうど」
 彼女は笑う。人数合わせか。わたしは運動が大の苦手だ。負けたら、絶対に責められる。
「早くして」




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