出店者名 残響センセーション
タイトル CCCは愛を謳う
著者 浅梛実幻
価格 500円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
A5 72ページ/約5万字

愛って一体なんだろう。そんな疑問を持つ貴方に贈る物語。

ネコの目の形のお月さまの日、ヒトがいなくなってさみしいところに愛を謳うサーカス団CCCはやってくる(『声なき声』より抜粋)

不器用なピエロ、兄妹人形の空中ブランコ師、傷だらけのドラゴン使い、ある物語を探す歌姫、そして、つよく、つよく、愛を謳うとある少女の五つの演目でお送りする今夜限りの物語。ヒトならざる者たちが二度目の命を得たときに見せるのは喜劇か悲劇かそれとも愛か。サーカスをモチーフにした愛と死生観の物語。切なくて少し痛くて、でも優しい。当サークルのモットーにふさわしい作品です。

 空中でブランコが大きく揺れる。あたしは足でコウモリみたいにブランコにぶら下がりながら、勢いをどんどんつける。あたしとお兄さまは『腕』という確かなようで、あまりにも頼りない術で繋がっていた。お互いの球体関節がきしきしと音を立てている。お兄さまは重たい。でもお兄さまはあたしを持って長い時間ぶらさがれないし、あたしを何度もキャッチしてもらうのも、腕や足の関節に負担がかかってしまって壊れたりしちゃうから、あんまり出来ない。あたしはその気になれば直してもらえる。でもお兄さまはそうはいかない。なぜならあたしは合成樹脂の球体関節人形だけど、お兄さまは人形たちがみんな憧れるビスクの球体関節人形だから。
 でも空中ブランコで大事なのは、重さや大きさじゃない。タイミングと呼吸なのだ。
 あたしは勢いよくお兄さまを放り投げた。お兄さまは体を丸め、くるくると回って、あちらのスタンドに立つ。くるくるの金髪に、エメラルド色の瞳、細身の体に真っ白い陶器の肌。とても、とてもきれい、そう、どのビスクドールの男の子よりきれいだって思った。逆さまに写ったお兄さまがいくよ、と呟く。空気がかたまって、震えなくなって、ふたりだけの空間になったように感じる。お兄さまは勢いよく飛び出し、そらに浮いた。
 天使が舞い降りた。見えない翼を背に持って。
 いつもそう思うのだ。
 お兄さまは、勢いよくブランコにぶら下がり、大きく漕いだ。同時にあたしは両手でブランコにぶら下がる。触れそうで、触れない。でも、きっと一番近いところ。そんなところでお兄さまは手を離して、あたしの足を掴んだ。とっさにあたしはバネのようにしならせ、両手を離して、お兄さまが掴んでいたブランコに掴まる。そこからお兄さまはあたしのブランコに飛び移った。いよいよ最後の大技に入る。お兄さまが飛んで、ひねって、後ろ向きにくるくると回ったところをキャッチして、引っ張り上げるのだ。そこから決めポーズ。お兄さまは座って漕いで、あたしはブランコのロープに足をからめて色っぽいポーズ。
 あたしは再び、コウモリの体勢になり、逆さまに揺れる世界にとけ込む。お兄さまはブランコにしっかり掴まっている。けど、あたしの心の準備に時間を使うとお兄さまの体に負担がかかる。あたしはしっかり両腕を伸ばした。合図だ。
 お兄さまは、そらに飛び上がった。