空中でブランコが大きく揺れる。あたしは足でコウモリみたいにブランコにぶら下がりながら、勢いをどんどんつける。あたしとお兄さまは『腕』という確かなようで、あまりにも頼りない術で繋がっていた。お互いの球体関節がきしきしと音を立てている。お兄さまは重たい。でもお兄さまはあたしを持って長い時間ぶらさがれないし、あたしを何度もキャッチしてもらうのも、腕や足の関節に負担がかかってしまって壊れたりしちゃうから、あんまり出来ない。あたしはその気になれば直してもらえる。でもお兄さまはそうはいかない。なぜならあたしは合成樹脂の球体関節人形だけど、お兄さまは人形たちがみんな憧れるビスクの球体関節人形だから。 でも空中ブランコで大事なのは、重さや大きさじゃない。タイミングと呼吸なのだ。 あたしは勢いよくお兄さまを放り投げた。お兄さまは体を丸め、くるくると回って、あちらのスタンドに立つ。くるくるの金髪に、エメラルド色の瞳、細身の体に真っ白い陶器の肌。とても、とてもきれい、そう、どのビスクドールの男の子よりきれいだって思った。逆さまに写ったお兄さまがいくよ、と呟く。空気がかたまって、震えなくなって、ふたりだけの空間になったように感じる。お兄さまは勢いよく飛び出し、そらに浮いた。 天使が舞い降りた。見えない翼を背に持って。 いつもそう思うのだ。 お兄さまは、勢いよくブランコにぶら下がり、大きく漕いだ。同時にあたしは両手でブランコにぶら下がる。触れそうで、触れない。でも、きっと一番近いところ。そんなところでお兄さまは手を離して、あたしの足を掴んだ。とっさにあたしはバネのようにしならせ、両手を離して、お兄さまが掴んでいたブランコに掴まる。そこからお兄さまはあたしのブランコに飛び移った。いよいよ最後の大技に入る。お兄さまが飛んで、ひねって、後ろ向きにくるくると回ったところをキャッチして、引っ張り上げるのだ。そこから決めポーズ。お兄さまは座って漕いで、あたしはブランコのロープに足をからめて色っぽいポーズ。 あたしは再び、コウモリの体勢になり、逆さまに揺れる世界にとけ込む。お兄さまはブランコにしっかり掴まっている。けど、あたしの心の準備に時間を使うとお兄さまの体に負担がかかる。あたしはしっかり両腕を伸ばした。合図だ。 お兄さまは、そらに飛び上がった。
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