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白魚が消えて、すでにひとつきが経過していた。 もともと、ふらりといなくなる子だった。 心配の声が上がるが見つからない。心配で心配でそわそわしていると、ふらりと戻ってくる。 今回もきっとそうだ。 きっとまた、ふらりと戻ってくる。 いつもそうだ。みんなそう思っているのだろう。 しかし骨網は不安だった。 いなくなる直前、白魚の様子がおかしかった。どこか思い詰めたようで、だが浮かれていた。あれがなんの予兆なのか、骨網にはわからない。だが白魚はおかしくなっていたのだと、それだけは声を大にしていうことができる。それをうまく言葉にできず、また訴えられる相手がいなかっただけだ。 どうにか白魚を追跡することはできないか。失せもの探しで有名な占術師を頼ろうかとも考えたが、周囲の安穏とした声にしりごみしてしまった。 骨網は閉ざされた園で世話役をしている。 骨網は指名を受けて公職に就いた。占術師を頼るなら、遠方に出ていかなければならない。 世話役の務めは代理が立てられず、結局出かけていくことはできなかった。 「帰ってきてくれりゃあいいんだがね」 骨網は草履に足を突っこみつつ、ため息交じりの短い笑いを落した。 白魚のことが気がかりで、考え方はやけに悲嘆に暮れたりひねくれたりしたものにかたむきがちだった。 ―こんなときは、無邪気な声を聞くに限る。 指名だの公職だのといっても、それはたんなる雛の世話と話し相手だ。 ちょっと掃除の手間がかかったり、元気すぎる雛たちに振りまわされるだけ。 楽しいおかげで、疲れることはあってもうんざりはしない。 「ちょっといってくるよ」 どこへ、という問いかけはなかった。 当然だ、ほかに誰もいない。 いつも返事をくれたのは白魚だ。 いまはいない。 それでもつい口から出てしまう。 戸を開けおもてに足を踏み出そうとしたとき、離れたところから声がかかった。 「髭!」 雛だ。 骨網を髭と呼ぶのは園に暮らす雛だけである。園を出て骨網の家を訪れるなど、起きていいことではなかった。 「なんだ、どうしたの!」 「髭、大変!」 雛はひとりではなかった。 五人もの雛があわてた様子で駆けてくる。 「な、なにかあったの!?」
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