少年は本当に嬉しそうに笑うと、ミズカの肩に手をのせてきた。ミズカはたじたじになってしまって、言葉もでない。少年の方はというと、ミズカの動揺にさっぱり気づいていないようだ。今度は、妹の方に声をかけた。 「マイ! 俺だけを責めるな、ここにも仲間がっ」 『マイ』と呼ばれた女の子は、いつの間にか、こちらへ歩み寄ってきていた。少年が言い終わるのを待たずして、彼の肩をつかみ、ミズカから離してみせたのだった。 いとも簡単に少年は倒れると、わざとらしく床の上を転がる。すっかり固まってしまったミズカに、女の子は優しく微笑みかけて、自己紹介をした。 「はじめまして、私は『勇気義 舞』。マイって呼んでネ」 「は、はじめまして……」 うつぶせになったままでいる少年を指差し、マイが言う。 「あれは、私の義(あ)兄(に)の、『勇気義 勝頼』。どうにもお調子者で、驚かせちゃってごめんネ」 「あれ呼ばわりしなくてもいいだろー。俺のことはヨリオっていうニックネームでよんでくれ! よろしく!」 寝転がった体勢のまま、親指をたててグッドサインをつくり、さらにウィンクまで送ってくる。ヨリオはきっと、それで格好つけているつもりなのだろうが、どうにも残念な印象がぬぐえない。 ミズカも小さな声ながら、名を名乗った。 「私は、重上 未珠花。ミズカって呼んでくれていいよ。その……よろしくです」 「よろしくネ、ミズカちゃん!」 マイは笑顔で右手を差しだしてくれる。手をとりあった。あたたかい握手をかわす。 ちょうどひと回り、マイの方がミズカよりも身長が低かった。 近くからみると、マイという子は、とてもかわいらしい。ピンクの丸い飾りのついたゴムでくくられた髪型も、はじけるような笑顔も。見ているだけで心が和む。 ミズカとマイ、互いに照れて笑いあっていたところ、ヨリオが割りこんできた。 「ミズカって良いネーミングだな。お前もそう思うよな」 「お兄ちゃん、いつの間に、なに拾っているネ?!」 知らぬ間に、ヨリオの手にナシがはさまれてしまっていた。身動きとれないでいるようだ。
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