出店者名 ひとひら、さらり
タイトル Cis2 第3版 サンヤー号にのって
著者 新島みのる
価格 800円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
※Cis.1を知らない人にも読んでいただけます。

仲間探しの冒険に出たミズカ、ヨリオ、マイの三人だったが、一日たらずで拠点が駄目になってしまった。
困っていたところ助けてくれたのが、帆船サンヤー号だった。

魚より泳ぎが速い遊泳人や、銀色砂丘の只中でひそやかに暮らす砂族など、
珍しい来客に船は賑わう。

昼は異国の子ども達と遊び、夜は互いの人生について語り合う。
サンヤー号は順調に航海を続けるはずだった。

しかし、ある島への上陸を巡って、騒動が起きてしまう。
戦後、分断された地域を結ぶように船を走らせてきた、ムガイ船長の思いとは。
 
友情とは、故郷とはいったい何なのか。
マイが本当の自分に目覚める、第二巻。


「それより、ほら。髪くくってやるよ」
 窓枠をひょいと乗りこえ、部屋に入ってくる(せっかくの女子部屋だったのに、ヨリオのデリカシーの無さは随一だ)。
 開かれたカーテンからさしこんだ陽射し。部屋に置かれてあった金銀財宝が、いっせいに輝きを放つ。美しく思う。
 けれどヨリオは、財宝にはさっぱり興味がないらしい。椅子を一脚かかえあげ、マイのところまでせっせと運んできてくれた。
「この椅子、家にあるのと似てるな。ほら、座れよ」
 マイは座る。確かに、パーマの待ち時間をすごしてもらう椅子に似ていた。
 ヨリオとマイの家、それは商店街の一角にたたずむ、昔ながらの散髪屋だった。
 ヨリオは櫛で、マイの髪をときはじめる。寝癖を丁寧にほどきつつ、なでるように櫛でとかしてくれる。マイは安心して身をゆだねていられた。
 開けっ放しの窓。白いカーテンがふわりとゆれる。目をとじれば、潮の香りがした。静かな、心地よいひと時だった。
「ほらよ、完成」
 窓ガラスに、二つくくりになった自分が映る。笑顔がはじけた。
「ありがとうネ、お兄ちゃん!」
 さすが、散髪屋の長男。髪ゴムはいつもの定位置にある。
「おーい、朝ごはん出来たぞー!」
「ジェイが呼びに来てくれたんだ。 はーい! 今行きます」
 ヨリオの大声。やっとミズカが目を覚ます。
「おはよう、ミズカちゃん。ごめんネ、驚かせちゃって。朝ごはんがあるみたいだから、準備して行こうネ」
「えーっと、うん。でもさ、あれれ、おっかしいなー」
 ミズカは、自分で自分の頬をつねる。
「たしか私たち、船に乗っているはずなのに……」
 ヨリオは笑い声をたてた。
「それはあれだ、船に乗ってる夢をみてたんだよ。俺たちが今いるのは、島の館。本物の船なら、あそこにあるよ」
「そっか、夢だったんだ! もう船に乗ったものかと思っちゃった」
 目をこすりつつ、ミズカも笑う。楽しい夢だったようで良かった。
「じゃ、俺は一足先に! 早く来いよな」
 やはり窓枠を飛びこえて、ヨリオは駆けていく。けれど勢い余って、こけてしまいそうになる。ひやりとしたが、なんとか体勢を持ち直した。
「ヨリオくんって凄いなー、元気がありあまっていて」
 ミズカは目を丸くしている。
「うん、そうだネ。それがいつものお兄ちゃんネ」
 格好つけすぎて、かっこ悪いんだけど、それでも、ヨリオはいつだって周りを元気づけてくれる。
 マイはわかっていた。


子供には子供の、大人には大人の
多彩な登場人物を乗せて、呼び込み、サンヤー号は大海原を行く。
船は世界の縮図のようであり、だからして互いに協力して航海を続ける仲間は一方で、それぞれの事情に葛藤し、すれ違う対立相手ともなり変わる。

主人公たちはまだ子供だけれど、だからといって船という名の世界の外から助けの手が差し伸べられることはない。逃げられないなら自身で難題に挑むのみ。そんな子供達の勇気と思いやりと友情が瑞々しくつづられた物語と読む。

同時に船が世界の縮図ならば、物語の中の「世界」のみならず今、目の前に広がる世界のメタファでもあるとするなら、そこに著者の強い想いと願い、希望を感じずにはおれない。そんな激しさも併せ持った1冊だと感じ取る。

子供には子供の、大人には大人の文脈でもってして読んで過不足ない物語と推薦する。
推薦者N.river

希望から目をそらさないで
ミズカ、ヨリオ、マイという三人の子どもたちが、
サンヤー号という船に乗って、冒険をするファンタジー小説だ。

物語の舞台にはさまざまな国があり、さまざまな種族がいて、
ある面ではうまくやりつつ、またある面ではうまくやれず、
――それはちょうど、わたしたちの世界と同じように――、
必死に生きようとしている。
三人の子どもたちを乗せたサンヤー号は、
大海を通じてそんな世界のなかをとおりすぎ、
いろんな人たちや出来事と出会う。
船から降りて出会うひとたちも、船のなかにいる乗組員たちも、
みんな<事情>を抱えているのが印象的だった。
<生きる事情>とでも言うべきだろうか。
誰もが苦しそうで、必死で、
それなのに誰もが自己中心的ではなく、やさしかったのが印象的だった。
例えではなく戦いのなかにいるひとたちが、
どうしてこうも他人にやさしく寄り添えるのだろうか。
それはもしかしたら、作者の希望なのかもしれない。

作者はこの物語を書くために十年近い年月を要したと知った。
この作品は作者の生きる姿そのもので、
からくも希望を持ち続けた作者の十年の記録なのかもしれない。
だから、やさしくて、眩しい。やさしさが眩しい。
推薦するにあたって言いたいのは、
「目を逸らさないでほしい」ということ。
本気で書かれた作品には、本気で応えてほしい。

この作品は、子どもたちに読んでほしい。
大人たちであっても、十年前の心で読んでほしい。
十年間を巻き戻すことができれば、あなたはそこに、希望を見つけるはずだ。
推薦者あまぶん公式推薦文