出店者名 波の寄る辺
タイトル 呟集 真珠
著者 桜鬼
価格 500円
ジャンル 掌編
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紹介文

問いかけと幻想の140字小説集

「反射光が意味を成すのは月が月であるからだ」
それが、月より遠くへ旅立って久しい彼の口癖だった筈だ。
新月の日は心許ないから、僕はひと月毎に思い出す。意味を取り違えていたのか、いや、あれは元より幸せな言葉などではなかった。
月の不在は、こうして僕の身の内までも侵食する。



髪紐を咥えた口許と、露わになった肘上の白が、今日も山間に朝を呼ぶ。
「雪が降りそうな天気だね」
「ええ、どこも満室だそうで」
「そりゃ景気がいい」
すっかり身支度を整えた女将が静かな通りを見下ろすと、同業の姿がちらほらとあった。
湯煙か朝靄か、人影がまさに影となる世界。



チョコとキャラメルは冬のお菓子だという私の意見に、彼女は目を細めて首を傾げた。
「固くってもどかしくなるじゃない。私は夏の方がいいわ」
溶けたチョコレイトとキャラメルは、時折懐に潜んでいた。甘い香りで災厄を誘う。
……パキリ
そんなものは、口の中に隠してしまいたいから。


その断片に潜む、真珠の輝き
140字で切り取られた風景。

幻想の、日々の生活の、極限の、その刹那。
どの刹那……断片にも、さまざまな色合いの輝きが潜んでいて、その輝きは、「断片」の過去と未来、登場人物たちの文字としては刻まれていない気持ちを淡く照らし、読者の脳裏にその姿を影絵のように映し出す。

輝きもまた、暖色のぬくもり、黒真珠の深淵、純白の清冽、蒼い哀切……さまざまな色合いを持っている。

各ページの書体も物語に合わせて選択された、作者の美意識が磨き上げた作品集です。
推薦者宮田 秩早