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被災物の展示に目を落とした。 |
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イリエの2巻はメシテロ小説です。 油断してはいけません。お腹を空かせたときに読むと、お腹がさらに空くので大変です。金港館のお弁当、キッチンスペース夢の舎の気仙沼ランチ、復興屋台村のまかない丼。気仙沼篇だけど3度も食事シーンがでてきます。「東北の食」と書くといささか大げさかも知れませんが、食事もイリエの大きなテーマのひとつになっているのでしょう。そのくらい彼女たちはよく食べます。美味しい食事は旅の醍醐味とも言えますし、食事のシーンも大きな魅力になっています。 食事から離れますが、イリエ2巻の象徴ともいえるのが有名な奇跡の一本松です。作中で奇跡の一本松がモニュメントであることが明かされます。わたしもイリエを読むまですっかり忘れていたのですが、奇跡の一本松は枯れてしまい、今あるものはモニュメントなのです。 依利江と三つ葉はその事実を知りながら、とあることがきっかけになり、奇跡の一本松をモニュメントでもレプリカでもないと感じます。 『イリエの情景』という作品は、今田ずんばあらずさんの体験、取材を依利江のフィルターを通して物語として再構築されたものです。事実性は高いのですが、あくまでフィクションになります。もっと言えば、依利江たちが見た景色は、実際の東北の景色とは限りません。それは1巻の自由の女神像が、実際には2016年にはなくなっていたように、描かれているものが正しいとは言えないのです。フィクション──作り物の旅行記という意味で、イリエの情景という作品はモニュメントやレプリカなのかもしれません。 イリエの2巻では依利江は「親友」と向き合うことになります。東北の旅で芽生えた依利江の思いは、彼女の気持ちを知った読者の思いは、フィクションだからといって偽物になるのでしょうか。被災地青春ロードムービーと銘打った物語の「青春」にスポットを当てた2巻では、作者の今田ずんばあらずさんは、おそらく偶像でも偽物でもないものを描こうとしているのでしょう。読んだ人の心にずっと残るものを書こうとしているのだと思います。 その思いが伝わってくる力作です。 | ||
推薦者 | ひじりあや |