「……忍」 寝起きのざらついた声に苦笑いでも漏らしたくなっていれば、同じくらいの、やすりをかけわすれた木肌みたいな少し焼け付いた声で、「おはよう」とそう声をかけられる。 「――あまね」 いつになく頼りない響きでつぶやきながら、すり、と寝起きの少し体温の高い身体をすり寄せられる。 「さっきねえ、夢見てたの。周の夢。夢ん中でもいっしょで、起きても周いるじゃん。なんかさぁ、おかしいなって思って」 少しだけ寝ぼけたような様子のまま、熱を帯びた指先はまるで暗がりの中でこちらの輪郭をたどるかのようなおぼつかない手つきで、さわさわと頬や耳のあたりをなぞる。 「周がさ、初めて泊まっていいって言ってくれた日があったじゃん? そん時の夢でさぁ」 なにかを探し求めるように、しなやかな指先でするりと髪をかきあげる仕草とともに、続けざまに言葉が紡がれる。 「周、すごい緊張してて。かわいいなーって思ってたけど、ほんとはちょっとだけ心配だったんだよね。朝起きて、周いなかったらどうしよって。でも周、ちゃんといてくれたじゃん。ぱちって目があいて、したら、なんかちょっと不機嫌そうにして、でもちゃんと俺のこと見てくれてる周がいて。夢かな? どうしよって思いながら『おはよ』って言ったらちゃんと、おはようって返してくれた」 笑いかけながら答えてくれるその瞳の奥で、揺らぐ光が、僅かににじむ。 「なんかね、いま起きて。あれってなったんだよね。どっちなのかわかんなくて、あれって。でも、ちゃんと周だった。きのうちゃんと『おかえり』って言ってくれて、一緒にいていいって言ってくれた周だって、ちゃんとすぐわかった。だからだいじょぶなんだって思ったら、なんかすごい安心して」 笑いながら髪を梳く指先がほんの僅かに震わされていることに、いまさらのように気づかされる。 「……ごめん」 振り絞るように、そう答える。吐き出した吐息はたちまちに胸の奥で滲んで、ぎゅうぎゅうと心ごと締め付ける。 「……なんで謝んの?」 僅かに輪郭のふちを歪ませた言葉をまえに、答える代わりのようにそっと髪をなぞりあげ、少しだけ汗ばんだ額にそっと口づける。 後戻りなんて出来ないことを知っている。いまここにいてくれる、それが答えで、すべてだなんてことだって。だからこそこんなにも苦しい。こんなにもあたたかい。
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