出店者名 つばめ綺譚社
タイトル 手ノ鳴ルホウヘ
著者 紺堂カヤ
価格 1300円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
─音楽やろう、と深水くんが言った─

奏(かなで)は就職二年目の春、学生時代にバントを組んでいた深水壮太からメールを受け取った。そこには、「音楽やろう」という一言が──。
そして、壮太、亮、奏、サヤの四人の音楽が始まった。
音楽と人生を混ぜてしまった者たちの、青春バンド小説。

 電線で寸断された桔梗色の空の悲哀を、あたしは上手く言い表すことができない。ただぼんやり見上げて、なんかちがう、って首をかしげるだけだ。
 首をかしげたところで、信号待ちだ。スタバの目の前の、大きなスクランブル交差点。目の前には大きなテレビ(正式名称があるんだろうけど、あたしは知らない)がかぶさって、空は完全に見えなくなった。代わりに、人気絶頂の男性アイドルグループが飛び込んでくる。先週発売されたばかりの新曲の、プロモーションビデオ。
(良い曲だなぁ)
 サビのメロディーにパンチがあるし、何よりドラムが変わってていい。
(最近このグループ当たり曲多いよね)
 アイドルにしてはなかなかの歌唱力であることも大きいのだとは思うけれど、今までの曲たちより明らかにレベルが高い。けれども。

  君が選ぶ道はきっと
  間違いじゃないよ大丈夫
  君が信じるかぎり

(歌詞がなぁ)
 イマイチ、どころでなくヒドイ。
 君って誰。誰に宛てた歌なのこれは。
 誰でもない不特定多数を”君”っていう言葉でごまかしてるんじゃないの。
(もっと、こう、さあ……)
 もっと、どうしたらいいのか、あたしには上手く言い表すことができない。ただイライラ見上げて、なんかちがう、って唇をかむだけだ。
 ちがわない音楽が、昔はそばにあったのに。
 それをはっきり思い出そうとする頭に、青信号がストップをかけた。横断歩道を、渡らなくちゃ。


生かしてくれる音楽といっしょに
この作品は、わたしにとって、生かしてくれる音楽のような存在です。
もう全部ダメな時や、元気をもっと追加したい時、聞くと全身にエネルギーを与えてくれて、
生命力が満ち満ちてくるような歌がいくつかあって、そういうのと同じ感じです。

バンドの人たちの話っていうだけでも最高なんですが、音楽をやっている登場人物たちの感じているわくわく感、好きなことに込める気持ちがそのまま乗り移って、自分もなんかやってやる!という元気が湧いてきます。

ここに出てくる人たちは、「持っている」人たちなんだと思います。才能も、仲間も、努力を当たり前にする性質も、資金も、チャンスも。でも、うらやましいとか、こんなのありえないとか、思わせない。

進める、楽しめる、そういう前向きなパワーが爆音で鳴っていて、そこに引っ張られていく。
聞くと「生きていける」と思える歌が、きっとみんなみんなあると思うので、そういう歌を聴きながら読んでもらったら、より一層楽しめると思います。

登場する架空の曲の歌詞もすごくよくて、しびれる。
それに会話の掛け合いも心地よくて、素敵な人間関係に心がぽかぽかします。

大絶賛します。大好きな作品です。
推薦者ハリ

純度100%の青春バンド小説
推薦文を書くにあたり、推薦コピーを書くことになっている。
書く前にコピーを決めてから推薦文を書き始めることもあるし、
書き終えた後に推薦文を振り返ってコピーを書くこともある。
いうまでもなく、コピーは大事だ。
だから小説のことを考えて、思い返して、真剣に作る。
この小説の推薦コピーは、すぐに思いついた。

「純度100%の青春バンド小説」

あまりにありきたりすぎて、ちょっと笑ってしまう。
もう半分で、著者の紺堂カヤさんに申し訳なくなる。
でも、このコピーを思いついた直感を信じることにした。
この小説は、春のどこまでも突き抜ける青い空のような、
スカッと爽快で気持ちのいいバンド小説だ。

青春、と呼ぶには、登場人物たちの年齢は高いかもしれない。
みんな大学を卒業して働いているような社会人たちだ。
それが、かつて大学でバンドをやっていた縁に引きずられ、
「天才」深水壮太に引き寄せられ、再びバンドを組むことになる。

音楽をやるにあたり、きっとすごく苦労する話なんだろうな、
なぜかそんな先入観があった。
バイトでお金を稼ぐかたわら、ライブをやってもお客さんは来ない、
ノルマに苦労し、取り置きを流し、年中離れられん金貸し、
「ライブなんで休ませてほしいんですけど」と言えばバイトをクビになり、
「OK、余裕」と呟いたりするBAD END。
(今思えば、なんの予備知識だったんだそれは……)

少しネタバレになるけど、そんな苦しい下積み時代はぜんぜんなかった。
お金には苦労がなかったし、スタジオつきの家まで用意されていた。
そのまま、とんとんとん、と、デビューしてしまう。
そんなところが、なんか、すごくいいな、と思ったのだ。
どうして音楽をやるのに、好きなことをやるのに、
苦労しないといけないと思っていたんだろう?
ただ純粋に音楽をやる奏は、亮は、サヤは、楽しそうだった。
きらきら輝いていて眩しかった。
その全てが、小説のフィナーレに結集されていて、
誰もが知っているだろうライブが終わったあとの
狂ったような感動を思い出させた。

そしてきっと、壮太も。

壮太は言う。
「やりたいことがあるのにやらないなんて頭おかしいよ、変だよ」
それだけでよかったのかもしれない。
好きなほうへ、行きたいほうへ
手ノ鳴ルホウヘ

少しだけ未来が好きになる、前向きで気持ちのいい小説だった。
推薦者あまぶん公式推薦文