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先生に、この場所の前に集合と指定されるまで、生徒会室がこんなところにあるとは知らなかった。 |
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『ミニチュアガーデン・イン・ブルー』の続編。だけれど、雰囲気が異なる。 青い箱庭の中で育まれていた幻想的な雰囲気が薄れ、現実が押し寄せてくる。 高校生活、新しい人間関係、広がっていく世界、閉じたままではいられない自分。 それは成長していくことかもしれない。良い変化、と呼べるのかもしれない。 けれど、自ら変化を望んでも、変化を強いられても、受け入れても、苦しい。 好きな人のためになることをしたい、手を差し伸べたい、その思いを汲みとりたい、でも、そうなれない。自分のエゴに気付きながらも振り回される。感情ばかりが先走って言葉が行き詰まる。自分自身ですら、自分の気持ちがわからない、本当の気持ちがわからない。そんな苦しみを味わいながら、経験しながら、成長していく時間。 そして、そんな現実と隣合わせで、過去が揺らめく。 過去から逃れられないまま、振り回されながら、それでも、自分にかけられた願いのかけらを手にしていく。 いろんな苦しさを乗り越えて、生きていく。 未来なんて知らずに、ただひたすら、その時その時の精一杯で、今を生きている。 間違えたかもしれない、傷つけたかもしれない、どうにも取り返しがつかないかもしれない、それらを放り出すことなんてできずに、ただ抱えて、抱え続けて、必死にあがく。 とても苦しい物語だったと思う。 それだけに、苦しさを乗り越えた先にある輝きにほっとする。 終盤、苦しさを乗り越えた少年たちに明るさが戻ることが嬉しかった。 『夏火』では、物語の中のいろんなことが、苦しさが、すべて解決するわけではない。 けれど、彼らは彼らなりに、成長する。 生きていることを、命があることを、名前があることを、そこに込められた願いを、いろんなものを抱きしめたまま、物語は続く。 | ||
推薦者 | なな |
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「ブルー三部作」第二作。 第一作「ミニチュアガーデン・イン・ブルー」の推薦文で 「これは戦いの序章」と書いた。 第二作「夏火」は、戦いだ。 三部作の二作目というのは難しいと思う。 起承転結でいえば承と転。 それ単体で物語を成り立たせようと思うとき、書くことがないのだ。 これはそのまま、高校二年生という中途半端な時期にも当てはまるかもしれない。 何処にも行けずに、ただ焼けつくような衝動だけが身体の中を蠢く。 「夏火」は、智尋と陸と椎名と、新たに登場する昴が 高校二年生を過ごす物語である。 誰しもが必死だった。 必死であるが故に自己ばかりが肥大し、相手を傷つける。 焦り、迷い、自分を責める。 ミニチュアガーデンではもっと簡単でよかった。 何処で間違ったのだろう。 犬のアレックスがいなくなったから? 陸が早苗に似てくるから? 分からない、ただもがくように、戦う。 三部作の中で、一番身を切るような切実さが表現に出た小説だと思う。 あるいは、小説ではないのかもしれない。 ただ魂の発露のようなものが、夏火であり、僕は愛おしいと思う。 | ||
推薦者 | にゃんしー |
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ブルー三部作とは 『ミニチュアガーデン・イン・ブルー』 『夏火』 『はばたく魚と海の果て』 の三冊で構成されるシリーズである。 男子高校生三人の、高校入学から卒業までが描かれた、純文学でジュブナイルでBLなお話。 そうやってカテゴライズしたけれども、そんな三言くらいでは表現できないのがこのブルー三部作だ。 海のある、狭い町での話で、世界は極めて狭い。 高校時代なんてそんなものだし、当たり前に思うかもしれない。 けれど、この物語はスノードームのように閉ざされた空間に粘度のある液体でどこにも気泡なんてないほどの密度がある。 本当は、逃げ場なんて探せばいくらでもあるのに、それを許さない。 どうにもならないことは、往々にしてあって。 分かってはいるけれど、涙を止められない。 ああ、もう、なんで? と無意味なことを思うこともある。 今まで読んできたものは、本当に物語でしかなかったのではないかとすら思った。 それが悪いわけでは断じてない。読み手は、それを求めているのだから。 だから、そう、リアルな理不尽さは、物語の甘さをすべて排除する。 ただ、凄惨なまでに青くて綺麗だ。 ジュブナイルにして「死」と「生きること」がどんなことか、刺すような痛みで見せてくる。 BLはこのテーマの中でおまけのようなものかもしれない。 けれども、なくてはならないものであるのも確かで「好き」という言葉に支えられている。そして、耽美的に綺麗でもある。 とにかく海の青のように綺麗としか、私の貧相な語彙力では言い表せないのが無念である。 ただただずっと、海の深いところを歩いているような暗さが続くような物語だけれども、 いつの間にか、その冷たい海に引きずり込まれるように飲み込まれて、夢中で地上を探している、そんな感覚を覚える。 地上を見つけて水面に顔を出した時のような最後は清々しい。 物語に終わりなんてない。地上を見つけても、そこからまた歩き出す。 そんな、新しく扉が開くような、最後を是非見てもらいたい。 きっと、青ではない表紙を改めて見つめることだろうと思う。 | ||
推薦者 | 真乃晴花 |