出店者名 午前三時の音楽
タイトル ジェミニとほうき星
著者 高梨 來
価格 800円
ジャンル JUNE
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紹介文
創作BL │ 文庫 │ 284頁 │ 800円 │ 15/09/20


伏姫海吏(フセヒメカイリ)、17歳。双子の姉に不毛な片思い。

双子の姉と留学先に残した同性の恋人との間で揺れる主人公が親友の助けを借りながら自分自身と、他者と向き合い殻を破ろうとするまでのお話。 ぬるめのBL要素ありの青春小説です。男の子同士の過剰ないちゃつき、近親間・同性間の恋愛描写有り。性描写はありません。
海吏と親友春馬の出会い、本編終了後の双子のその後のスピンオフを同時収録。

長めの試し読み→http://lovelylic.ivory.ne.jp/3am/sample/jemini.html

「言ったよね、二卵性なんだ」
「女版のカイかと思ってたから、拍子抜けした」
「そうじゃなくて良かったよ。そんなの、考えただけでぞっとしてくる」
「どういう意味、それ」
 不可思議そうに顔を顰める彼を前に、僕は答える。
「鏡を見る度に祈吏と同じ顔が写ってるだなんて、いろんな意味で耐えられない」
「とんだナルシストの台詞だよ、それじゃあ」
「だったらいっそ良かった」
 ため息混じりに笑い飛ばすようにしながらそう答えると、そっと体を預けていたその肩にゆっくりとしなだれかかられ、そのままずさりと二人してベッドに倒れ込む。ぽすん、と鈍い音を立てて二人分の体重をかけられたマットレスに沈み込んだままふわりと視線をさまよわせれば、いつになく物憂げな色をしたブルーグレイのそのまなざしに、ふいに自らの影を縫い止められる。
「ねえ、そんなに彼女が好き?」
 どこか憂いを帯びたその色に、何故か胸の奥が淡く締め付けられる。
「……ああ」
 本当は分からない。けれど、女の子に向ける好きの気持ちでは一番大きいそのはずだと、半ば盲目的にそう信じていたのは確かで。躊躇うこちらへと、大きなその掌をゆっくりと差し伸ばし、包み込むようにそっと頬に触れるようにしながら彼は言う。
「僕はカイが好きだよ」
 振り絞るようなそんな声が届いたその途端、鼓膜の奥を否応なしにくすぐられるような、そんな感覚に陥れられる。もしかしたら、こんな瞬間が訪れるのをずっと待っていたのかもしれない。
 まるで何かに導かれるかのように反射的に、震えた唇を押し開くかのようにしながら僕は答える。
「……僕もだよ」
 その途端、視界に写るブルーグレイがまざまざとうち震える。まるで冷たい掌で直接胸の内側に触れられたようなそんな不可思議な感覚に襲われるその中で、いつの間にか、頬に添えられたままのその掌が微かに震えていることに僕は気づく。
「違うよ……」
 ふるふると、振りかぶるように首を横に振って彼は答える。その言葉はまるで、鋭く尖ったナイフの切っ先を突きつけられたかのような残酷な冷たさを孕んでいる。
「君は寂しいだけなんだよ。そのくらい知ってるよ、そんなの全部分かって君に近づいたんだ。軽蔑するだろ?」
「そんなこと……」


彼らのセンシティブさと共に涙し、癒されるお話
双子の姉に不毛な片思い……という一文の中に込められたものを、本書を読み終えた後に考える。
不毛な片思いに至る、海吏くん自身の優しさや脆さ。家族との関係性と、それを取り巻く「普通の(=リアリティのある)」人たち。
そんな海吏くんのモヤモヤやそれに伴う悲しみや怒りを受け止めて癒してくれる、異国で出会った同性の恋人・マーティンと、友人として彼を好ましく思い「友人」という関係性の中で彼の肯定を促してくれる同級生・春馬くん。恋人の愛と、友人の情のあたたかさを繊細かつ美しい言葉たちで表した、青春小説です。
推薦者服部匠

愛し方を学ぶ、あの青い季節の
 主人公の海吏くんが双子の姉の祈吏ちゃんへの恋で悩むのは、近親相姦というよりも、あたたかく安全な巣から飛び立つ雛の苦しみであるように感じた。何があっても味方でいてくれる、家族。それはもちろん大切で必要なものだけれど、生きていくためには、時に攻撃してくる者も現れる、危険な「外の世界」に出て行かないといけない。

 外の世界にだって味方になってくれる人がいる。無理やり巣立ちをするように留学したロンドンで出会う、マーティン。けれども同性であるがゆえに、彼は愛し愛されることをためらう。

「君は寂しいだけなんだよ。そのくらい知ってるよ、そんなの全部分かって君に近づいたんだ。軽蔑するだろ?」

 このセリフ、切なくて本当に良いですね…… 海吏くんとマーティンがキスをしたり体を触りあったりするシーンがとても優しく素敵で、舞台がイギリスであることもあり、映画「モーリス」を思い出しました。
 BLは、やるのも良いが、やらないのも良い!!

 海吏くんは最終的に、祈吏ちゃんとの適切な距離を見つける。 

「愛おしいというその気持ちの在り方を教えてくれたのが祈吏だった」

 家族愛も、異性愛も、同性愛も「自分ではない誰かを大事にする」という意味で基本は一緒だ。
 海吏くんと祈吏ちゃんはこれからもきっと(それぞれが別の家族を作ったとしても)支え合って生きていけるし、沢山の人に愛を分けてあげられる。
 そんな気がした。
推薦者柳屋文芸堂

誰かを好きになること、幸福な追体験
作者である高梨來さんが、とても大切に愛情深く書かれたのが伝わってきます。BLといえばそうなのだけど、誰かを好きになることや寄り添い合うことのあたたかさが丁寧に描かれた、純度の高い青春ストーリー。キュンとしたりはらはらしたり、もだもだしたり。海吏と一緒に悩み惑うのはいっそ心地よくて、読書の醍醐味だなあなんて思ったり。
海吏のナイーブさ、祈吏のかわいさ(本当にかわいい!いっそとうとい!)、春馬くんの優しさ。キャラクターがとても魅力的で、10万字という長さを感じさせないテンポの良さです。会話のみずみずしさもそうですが、お洋服や食べ物などのディテールがかわいくて、素敵です。
私の最推しはマーティンです……!シベリアンハスキーのような瞳、という描写でもう好きに決まってるんですけど、ちょっとした会話や仕草にあらわれる優しさ、海吏へのまなざしがもう……!これ以上は私が言うのも野暮なので、ぜひ読んでください。
続編や掌編、あまぶんではポストカードSSも、彼らの物語はこれからも紡がれていきます。Twitterやブログでも、來さんから彼らのようすを聞かせていただけて、それらをリアルタイムで楽しめるのが読者としてとてもうれしいです。
推薦者オカワダアキナ

ぼくらの皮膚がまだ繋がってたころ、ぼくは、
思春期の、自意識と人恋しさと気負いと憧憬入り混じるお年頃の、好きな人たちの何が好きなのかどうして好きなのか好きでいていいのか百遍自問しちゃうストイックさ、もういいじゃん触れちゃえよって突っ込んでは決していけない……そのころの記憶……うっ眩暈が

主人公の海吏も親友の春馬も、優しく強がりで大人びているふうだけれど、一皮剥けば溶けかけたバターのように心許ない感情を扱いかねて迷っている。まだまだ感情もからだも分類しきらない時期で、自分と他人の境界線が曖昧で、容易く心ごと差し出しあってしまう彼らの、危なっかしさが愛おしいお話。
推薦者容 (@詩架)

ファンタジーという名の薬と癒し
双子の姉と、留学先のイギリスに残してきた同性の恋人との間で揺れる心を軸に、人間関係で傷ついた心が癒やされ、他者を受け入れられるようになる少年の変化を描く、青春BL小説です。

人に傷つけられたものを回復するのもまた人、海吏は親友の春馬や姉の祈吏、恋人のマーティンとの交流を経て自信を取り戻してゆきます。
描かれる人間関係は箱庭的で温かく、ともすれば結論ありきのファンタジーだと読めるかもしれません。けれど、作者の來さんはそのような読まれ方をされることも含めて、この「ジェミニとほうき星」を執筆されたのではないかと思うのです。
何か疲れたな、しんどいな、そんなときに安心して没頭できる優しい世界を、否定されることのない完全な肯定の世界を。そんなふうな気配りが感じられます。
フィクションの世界で英気を養い、再び現実に帰ってこられるようなひとときの休息。そんな物語です。
推薦者凪野基

悩み続けるということ
この作品をはじめて読みおわったとき、ツイッターで、

「読みながら、人を好きになること、「好き」という気持ちそのものがわからなくなった!」

と叫んだのですが、そういえば、先日書かせていただきた、にゃんしーさんの
「赤ちゃんのいないお腹からは夏の匂いがする」にも同じことを書いてましたな。

同じ「人を好きになることがどういうことかわからなくなった」という言葉でも、
この2作品を読んで思ったことはそれぞれ違って、
(それを同じ言葉でしか表現できなかったのはわたしの語彙力の問題である)

この「ジェミニとほうき星」の主人公伏姫海吏くんが、双子の姉、祈吏のことを
好きだと思う気持ちと、その胸のうちの苦しみや、祈吏のことをどんなふうに
大切に思っていて、どれほど好きかという心情吐露に、私は途中ですっかり
説得されてしまったのだ。

私が、「そうか!!! そんなに好きか!!! わかった!!!
双子の姉だろうがなんだろうが関係ない! 一生愛し抜くことをゆるす!!!!」
と思っても、海吏はまだ悩んでいた、という(笑)


そういうわけなので、それを過ぎてからは、海吏がどうしてこんなに悩むのか
わからなくなってきて、この話がどういう結末になるのかもわからなくなって、
だんだんはらはらしました。
ボーイズラブの定石として、どのキャラとどのキャラがくっつくか、また攻か受か、というのは
表紙やら何やらであらかじめわかっているものなのですが、この作品は
それがわからなくて、(もしや春馬ルートに行くのでは…とも思ったり…)
やきもきしたり、ほんわかしたり、1冊の本として、すごく楽しめる作品だなあと思います。
ぐいぐい読ませる文章力があり、海吏の結論を知ったら、きっと続編も読みたくなるはず。






推薦者壬生キヨム

吐息が聞こえるようなリアル、両性愛に惑う少年の成長物語
 目立つ名前と男女の双子という理由で、中学時代にいじめを受け、親友の春馬にしか胸のうちを明かせない伏姫海吏(ふせひめかいり・主人公)。
 その親友にさえ、英国に残してきた「好きな子」が男だと打ち明けられないでいる。双子の姉の祈吏(いのり)にもまた、幼い頃から思慕を抱き、いずれはどちらかを選ばなくてはいけなくて――。
 思い詰める海吏の姿がピュアで、思春期独特の切羽詰まった焦燥感が伝わってきます。女子高校生の喋り言葉をそのまま書き写したような台詞、化粧品やお菓子、整髪料がまじった女の子特有の甘ったるい匂い、金切り声のような生徒達の嬌声など「今この日本に存在してそう」なリアルを感じさせる描写が巧み。
 なんといっても「彼氏」のマーティンが魅力的。「好きだ」と言う海吏に、「きみは寂しいだけなんだよ」と頑なに拒むストイックさが切ない。
 頁数の多さを感じさせないほど、内面描写が濃く、掌編とおまけペーパーが嬉しい一冊です。
 後日談的な続編「MY SHOOTING STAR」・恋愛成就編「あたらしい朝」もオススメです。
推薦者きよにゃ