「中途半端でヤなんだよね」 幼馴染は唇を尖らせてぼやき、ぐったりと寄り掛かってきた。 「ユート、重い」 「いっそのこと、全然それっぽく見えない方が良かった」 祐斗は私に体重を預けたまま言葉を紡ぐ。 元々色素の薄い頬が、色白を通り越して蒼白になっている。大分参っているらしい。 「噂がひとり歩きして変に期待されたり、勝手に失望されたり、そういうのが一番ムカつく。あと、面白がって色々ちょっかいかけるやつ」 実際私も、彼が水浸しになった姿や階段で突き飛ばされるところを数回見ている。悪ふざけにしては度が過ぎていると思う。 本人の様子は傷心というほどではないが、疲弊しているのは確かだろう。 正直、祐斗があの程度の嫌がらせに屈するとは思っていない。だが、縋り付く手を振り払うことはしなかった。 今日は弱った幼馴染を存分に甘やかすことに決めたのだ。 頭を撫でると、祐斗は甘えるような仕草で私の首筋に顔を擦り寄せてきた。 「イオちゃん、いいよね?」
軽率な嫌がらせをした彼らは幸せだ。きっと、知らないから。本能を滲ませた祐斗の凶暴な目も、血を求めるときの有無を言わせない声も。 人を母に持つ吸血鬼は、妙に鋭い犬歯を覗かせて笑った。
欲求を満たしてご機嫌な幼馴染は、私を抱えたまま思い出したように言う。 「あ、でも、いいこともあった! プレゼント貰ったし、この前なんかラーメン奢ってもらったんだ。いい奴らもいるもんだね」 嬉しそうに目を輝かせる彼に、私は曖昧に笑っておいた。 吸血鬼を相手に、にんにくの効いた食べ物と銀の装飾品。 嫌がらせか好意か微妙なところだが、判定は本人に任せる。
(混血の吸血鬼と幼馴染の少女)
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