就職活動とアルバイトで溜まった一日の疲れと共に古ぼけたアパートの一室へ帰宅すると、見知らぬ男が居座っていた。 そんな相手が我が物顔で自分の家にいて、私が感じたのは恐怖ではない。怒りだ。 なぜならそいつは私の部屋で私のこたつに入り、私のお菓子を貪っていたのだから。 「《まんまる堂》一日限定十五個の羽二重餅いいいいぃ!」 男の前に広げられてある竹籠を取り上げる。軽い。すっかり空になっていた。 「昨日奇跡的に買えたお菓子だったのに!」 私の叫びに男はのっそりと顔を上げる。鳩の血色の瞳に目を奪われるけれど、乱れた長い髪が見苦しい。 「お前がなかなか帰って来ないのでな。つい手が伸びてしまったのだ」 低い声で悪びれる様子もなく言ってのける態度に、私は竹籠をこたつへ叩きつけた。 「つい手が伸びた? 《まんまる堂》の価値を知らないでしょ? 大体、帰宅の遅かった私が悪いみたいに言って責任転嫁も甚だ―ちょっと、聞いてる?」 「紹介が遅れた」 私の怒りをさらりと流して男が言った。相変わらずこたつに居座る姿は、落ち着いているというより感情が欠落しているように見えた。何だか私が怒っていることの方が間違っているみたいで腹立たしい。 「我が輩は死神だ」
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