出店者名 眠る樹海堂
タイトル かみさまの森
著者 土佐岡マキ
価格 400円
ジャンル 大衆小説
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紹介文

「不用意に山に入るな。喰われるぞ」

16歳の白井拓海は、生まれ育った海辺の街から、山あいの「美河淵村」に引っ越してきた。
はしゃいで虫取りに出かけた弟とは違い、都会育ちの拓海に村の空気は耐え難い。

自分の境遇に苛立ちながら山を散策していたところ、拓海が出会ったのは、同年代の少年少女だった。
他の子ども達とは異なる雰囲気を纏った二人・聖と綾は、顔を合わせるたびに奇妙なことを拓海に告げる。

とある村の夏と、子どもたちと、神隠しの話。


文庫判/66ページ
現代

「なんじゃ、お前。ここらで見ん顔じゃな」
 急に声をかけられ、悪さをしているところを見咎められた気分になる。
 しかし、よくよく見ると声の主は、拓海と同じ歳の頃の少年だった。
 よく日に焼けた顔が、笑みを浮かべている。警戒している風ではなく、短い前髪から覗く瞳は、どちらかといえば好奇心の色を強くうつしていた。
 半袖半ズボンに、足元は庭先に出るようなサンダルで、山歩きに適した格好ではない。だからこそ、地元の人間だと分かる。
「お前、名前は?」
 少年は、偉そうに拓海に尋ねる。
 むっとした拓海が答えるより先に、
「白井」
何者かによって拓海の苗字が告げられた。
 少年の後ろから、もう一人。同じく拓海と同年代の少女がひっそりと立っていた。少年とは対照的に、こちらはあまり日に焼けていない。血管の透けるような白さの腕が、袖から覗いている。
「多分、引っ越してきた人」
「はあ? そんな話、おれは聞いとらん」
「聖が他人の話を聞かないだけ。みんな言ってる。下の名前は私も知らないけど」
 少女は少年に詰め寄られても動じず、淡々と言葉を返す。
 うまい反論を思いつかなかったようで、少年は苦い顔をしたまま、少女を追い払う仕草をした。
「……もうええ。綾、お前は先帰れ」
「分かった」
 少女は素直に頷くと、拓海の横を通り抜ける。すれ違いざまに少しだけ目が合ったが、特に言葉は交わさなかった。少女は、拓海が通ってきた石段を、振り向かずに降りていく。
「おい白井、下の名前は?」
 聖と呼ばれた少年は、拓海を値踏みするように見て、そう尋ねてきた。
「……そっちこそ名乗れよ」
 いつまでも偉そうにされるのは我慢ならなくて、言い返す。少年は、気分を害した様子はなく、ただ吹き出した。
「そうじゃなぁ、『かみさま』とでも呼んでくれ」
 ふざけたことを、と眉を潜めれば、少年はいっそうひどく肩を震わせて笑った。
「都会のもんは真面目じゃな」
 こちらをからかうだけからかったまま、少年は拓海の横をするりと抜ける。
 石段の手前で振り返り、拓海に向かってひらりと手を振ってみせた。
「真島聖じゃ。これからよろしく、転校生。ああ、それと」
 真島はふと足を止める。そして、表情はそのままに、妙なことを言いだした。
「ここはかみさまの森じゃけぇ、余所者はあんまり不用意に山に入らんほうがええ。神隠しにあうぞ。暗うなる前にいね」




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